目を覚ますと、そこは何度か見た天井があり、
どう見てもそこは勝己の家の中だった。
光己さんと勝己の会話が階下から聞こえる。
勝さんの毎朝のコーヒーの匂いが、空気にほんのり溶けている気がした。
『トントントントン…』
近づく足音が私の部屋のドアの前で止まる。
勝己の声に乗せられた私の名前に、私は顔を赤らめる。
(い、いつ、雄英高校から勝己の家に戻ったっけ?てか、そもそもまだ夢の中…?!)
二の腕をつねると、普通に痛かった。
(えっ…と、今は夢じゃない。なら、いつ、勝己の家に戻ったんだっけ…?)
私はとんでもない夢を見た。
わざわざ勝己を召喚したうえに、
ジッパーやヘロインの手等の何の不安も感じず、久しぶりに外を楽しんだ。
ショッピングモールに連れて行ってもらい、
服を選んだり、
一緒にお昼やアイスクリームを食べたりと、
『普通』に日々を楽しめたと思う。
そして、勝己に欲しい言葉を欲しいだけ貰った。
そんな私だけの、
私だけが都合のいい夢を見た。
(へ、返事!返事しないと!)
私は慌てて丁寧に部屋に掛けられた制服を手に取ると、部屋着を脱ぎ、ブラウスの袖に手を通す。
『ツルッ…ドタッ!』
自分が脱いだ服に足を滑らせ、尻もちをついた私はすぐにドアの方に振り向く。
『ガチャッ』
着替えの途中にも関わらず、大きな物音がした事に心配だったのか、ドアを勢いよく開ける勝己。
暫くお互いの目が合ったままの沈黙が流れる。
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雄英高校内の広い廊下を歩く途中で、勝己の背に話しかける。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。