どこか見た事のある部屋の中。
私はすぐに昔住んでいた家だと分かった。
(個性の制御…)
頭に嫌なものがよぎったが、とりあえず、ほっぺをつねってみる。
どうやら夢の中らしい。
『お母さん』というワードに自分でも驚いた。
その瞬間、私の後方で『バサッ』という何かが倒れる音がして咄嗟に振り返る。
それは紛れもなく私の母親だった。
母の体からは赤い液体が海のように広がっており、微かにこちらに手を伸ばしていた。
手を取ろうとすると、今度はふと目の前に現れた父親が母の上に重なっていた。
二人とも血まみれだった。
人影が横目に映った気がして、そちらに目をやる。
そこには大きな姿鏡が1枚あっただけだった。
違うのは、『今』の私じゃなく、
母の形見のブローチを襟元の中央部分に付けた、『当時』の幼い女の子が居たことだった。
丸く怯えた目をし、顔にいくつかの血の数滴が飛んでいた。
その女の子が口を開いた瞬間、私は何を言われるのか怖くなって走り出す。
分かってはいた。
あの女の子は、
私であるということを。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。