────…声が、
聞こえる。
『今日、丸顔達が来てたぞ。半分野郎も切島も…てめぇの好きなクソナードも……ババアもな。』
スルリと優しい手つきで私の髪を撫でている。
『てめぇはここまで来ても何にも話さねぇんだな。さっさと目開けろ、心配させんな。』
微かに甘い匂いが近づいて、
『明日はてめぇの為に1位とってやる、だから目覚ませ、』
少し低くて、いつも私を大切にしてくれる柔らかい声で名前を呼ぶ。
『あなた。』
(か、つ…き…?)
深い微睡みの中、
私の唇に何かが微かに優しく触れた。
『…』
ああ…やっぱり、こういう時は勝己を呼び出しちゃうんだな…
都合のいい私、都合のいい私の幻想。
何度も貴方を想い出す。
相澤先生怒ってるかな…
いや、リカバリーガールの方が怒ってる…
女子の皆ともっともっとお話したかったな…
そもそも心操くんはちゃんと逃げられたのかな…
女優さんも、観客の人も怪我がなければ良いんだけど…
光己さん、勝さんにお礼言っておけば良かったな…
結局、オールマイトの事、好きだったな…
デクくんは本当に格好良かったな…
轟くんには最後まで付き合わせちゃって…
勝己は凄く、怒ってたり…するの…かな…
歓迎会しようって言ってくれたのに、
体育祭出ようって言ってくれたのに、
本当の事…ずっと隠してて、
最後まで言えなくて、
皆、
ごめんね…
でも、私、願ってるから。
皆が素敵なヒーローになれることを、
ずっと、ずっと…
願ってるから。
だから、どうか…
私の事は忘れて下さい。
全てが夢のよう、
全てがまるで桃源郷のようだった。
目を覚ませば消えてしまう程、
儚くて美しくて、かけがえのない、
私にとっての世界の全て。
目を閉じたままの私は大きく息を吸い、
皆が私の事なんて忘れられる様に、
皆の夢がこの先、脅かされないように祈って、
深く、深く、深く…
───────息を吐いた。
( f i n .)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。