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俺の中はざわつきと焦りがぐるぐると渦巻いたまま、日暮れを迎えた公園のベンチに座っていた。
相変わらず、俺が言った事に素直に応じてしまうあなたは、
今も大人しく俺が支持した通りに俺の前にしゃがんでいる。
こういう時にぶつける感情でも、俺にあなたが何かした訳でもないのも分かってはいた。
でも、誰にでも心を許すあなたを見ていると、いつになっても俺は救われない気がした。
少なくとも今日は。
あなたの夢の中なら、何だって許される気がした。
こんなのは只の、八つ当たりだ。
特別になれない事への当てつけだ。
(持ってないから、こうなってんじゃねーのか。)
予想外の返答に今日2度目にして言葉を詰まらせた。
口にはしないが、クラスの奴らをはじめ、
既に色んな人があなたの事を見ている事を知って欲しい。
(まじかよ…)
あなたの眼中には何も映ってないのか、と衝撃を受ける。
苦笑いをして誤魔化そうと努めるあなたを見て、俺はようやく切り出す。
(学習しろや…)
大きな吐息が口から零れると、ポケットから例の物を取り出す。
細かいチェーンの留め具を外すと、そっと首に手を回した。
チェーンが首に触れると、あなたの肌が一瞬跳ねるのを見て、抑え切れない何かがこみ上げる。
俺はあなたの首元にある例の物を見つめる。
あなたはゆっくりと目を開くと、俺の視線を辿って、すぐに気づいた。
壊れたブローチが細かく小さなチェーンに通されたもの。
今日あなたが少し席を離した隙に、直してもらえる様に頼んだものだった。
もうどこかに付けられはしないが、首に掛けることぐらいには出来そうだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。