フィルムが飛び出している間は動けない筈だ。
理由は精神と脳内が安定するバランスを崩してしまうのを、身体自体が防ぐ為。
なのに、ヘロインは動いた。
(まさか…人間の体を安定する機能や装置が壊されて…?!)
『ギチギチギチッギッチ…』
分厚い肉が擦れるような鈍い音を鳴らしながら、ヘロインは無理矢理こちらを見た。
その瞬間、恐ろしい速さで手の甲が私の顔面に飛んで来た。
『ドンッ…ブシュッ』
当たった途端、鼻から血が吹き出す。
そして、
『ガシッ』
ヘロインの大きな手で胸ぐら辺りと首を一気に掴まれた私は、
『ガッシャァァアンンッ』
壊された店舗外へと壁に直接打ち付けられる。
コンクリートの壁を突き抜け、ショッピングモール外へと出た私は鼻血と額の血を拭った。
咳をすれば、
前からの個性強制増幅剤の副作用のせいなのか、
それともヘロインによる内蔵損傷のせいなのか、
口を押さえた手袋の掌にはべったりと吐血した痕が付いている。
寄ろけながらもヘロインから距離をとり、
ヘロインが私に着いてくる事を想定して、人の居ない暗い小路へと入っていく。
その先には商品を乗せる扉付きの荷台が付いた軽トラックが停まっていた。
『強すぎる個性に身体が蝕まれている』。
それは自分でも分かってはいた。
検査で出た個性数値の異常な高さ。
個性を持つ一般人の平均値の12倍はあった。
強すぎる個性はコントロール出来ず、そして私の身体を内側から食い荒らす。
吐血や血涙が出る事もあった、瞳の色が変わってしまう事もあった。
目眩、不眠、食欲が湧かない事から食事を避ける時もあった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。