第221話

電話して
8,930
2019/12/29 23:27
目の前の男の人の後ろに階段が下へと伸びているのが見える。
あなた

す、すみません…

ゆっくり顔を上げる。
お前はこの前の…
あなた

?!

紫色の髪をすっきりと上げ、前は付けていなかった白いマスクをしている。
眼の下には黒い隈、瞳は髪と同じの紫。
私服であっても、マスクを付けていても、声のトーンや目元、髪で誰なのかはすぐに分かった。
あなた

心操 人使くん!

心操 人使
そうだけど…こんなところで何やってんだ?
あなた

あ、いや…あのね…

心操 人使
…そうか、ヒーロー科の奴らは雄英体育祭なんか余裕だ、ってか。
あなた

違う違う、皆は関係ないよ!それよりも、今やってるイベントがモール内の何処でやってるか知ってる?

心操 人使
ああ、あれか。それならこっち。
心操くんは私と階段を下りると、暫くモール内の道を急ぎ気味で歩いた。
あなた

し、心操くん、もしかして迷ってる?

心操 人使
別に迷ってない。今、会場内に入っても見えないだろ?
あなた

え?

心操 人使
だから。
心操くんが案内してくれたのは、お店が立ち並ぶ通りで、真下にはその会場が見える。
天井が1階から最上階まで吹き抜けになっており、落下防止の為に貼られたガラスの壁には手すりも付いていた。
あなた

ここからなら…

心操 人使
何かあるのか?
あなた

えっと…まあ、ちょっとありまして。あははは…

心操 人使
そっか。
私は案内してくれた心操くんに向き直り、すうっと大きく息を吸った。
あなた

心操くん、ありがとう。また助けて貰っちゃって。

心操 人使
礼は別にいいよ。
あなた

それと…ごめん。

心操 人使
何が?
あなた

雄英体育祭、出れないかもしれない。

心操 人使
なんだ、腰抜けちまったのか。それなら仕方ないよな。
心操くんは鼻で笑って、私の反応を待つ。
あなた

うん、自信が無いんだ。

私は余裕という器に収まりきらなかった不安を口から流し始める。
あなた

どうしても自信が無いの。雄英体育祭に出られる自信が。

心操 人使
『出られる』?
あなた

うん。

心操 人使
それはどういう意味で
あなた

まぁまぁ、それは置いといて。

心操 人使
はぁ?
あなた

心操くん、携帯持ってたりする?

心操 人使
持ってる。
あなた

そっか…じゃ、私が下に降りたら雄英高校に電話して、相澤先生に伝えて欲しいの。

心操 人使
相澤先生ってA組の担任の…って、おい、何する気だ?!
あなた

ん?

一瞬携帯を取り出した心操くんが視線を私から外した隙に、私は「よいしょ、」と手すりに足を掛けて、落下防止のガラス壁の上に腰を下ろす。

下からの微風が私の髪を少し浮かせる。
あなた

相澤先生に『木奥 あなたからの伝言』って付けてね。

心操 人使
待て、一体何する気で…まさかここから降りるとか考えてないよな?
私は黙って笑うと、心操くんの眉間には見る見るうちにシワが寄っていく。
あなた

心操くん、私とこれだけは約束して。雄英に連絡を入れる事。私の後を追って来ず、すぐにここから離れる事。

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