ヘロインは見覚えのある注射器を取り出す。
長い針の先が恐ろしい程に鋭く、中の液体がチャプンッと小さく音をさせている。
ヘロインが私に手を伸ばしたまま、静止状態になる。
私はその奇妙さに目が自然と丸く見開いてしまう。
私は気づかなかった。
『グサッ』
自分の肩口がズキンッと痛んで、咄嗟に押さえる。
『ボタボタボタボタッ…』
何が起きたのか分からないまま倒れ込む。
『バサッ』
瞳が痙攣するように焦点が定まらず、
そのままうつ伏せで目を開いているのがやっとだった。
(ま、さか…投げて来る、なん、て…)
肩口に刺さった注射器を抜く事さえも出来ず、長い針が肩を貫通する程深く刺さっているのが分かる。
(ち、からが…)
(呂、律が…回ら、な、い…)
唾液と混じった血が、口から糸を引いて吐き出される。
身体が熱い。
痛い。
傷ついた皮膚、目、鼻、口、耳…
体の内側がそこから飛び出してきそうなぐらい、熱くて、痛くて、気持ち悪い。
目は怖くて閉じられない。
瞼の裏まで熱くて、眼球が焼け死にそうだ。
呼吸も上手く出来ない。
外気が喉を通るだけで、喉が内側でブチブチと切れている気がする。
血の匂いが口の奥からするのが分かる。
その言葉に私はつい笑い声を漏らしてしまった。
(只、私がジッパーの研究室に居た頃と変わってないなって、思っただけ。)
そう、変わってない。
私は誰にも助けては貰えなかった。
親は死に、ヒーローは来ず、ましてやジッパーに加担する政府の人間やヒーローだっている。
誰にも頼れず、そして、「助けて」の言葉さえ口から出なくなってしまった。
でも、今は…
違う。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!