第191話

目閉じろ。
10,202
2019/08/31 08:01
爆豪 勝己
目、開けろ。
ゆっくり目を開けると、勝己がじっとこちらを見下ろす。

その視線の先を見ると、
あなた

…っ、

壊れたはずのブローチが細かく小さなチェーンに通され、私の首にかかっていた。
あなた

勝己、

顔を上げた瞬間、思いっきり抱きしめられる。
驚きと同時に困惑する。
勝己の甘い匂いが私を包み、勝己の体温が感じられた。

夢の中にしてはリアルすぎる、と疑わずには居られなかった。
爆豪 勝己
…間違ってない。
勝己の顔は見えず、どんな表情で、どんな感情で言ったのか分からない。

けど、その言葉だけで私は夢の中だと安心できた。
爆豪 勝己
夢ん中ならどんだけ泣いても構わねーだろー…が。
勝己がそう言ってくれた頃には、私から涙が溢れ出ていた。
あの時みたいに大きな声ではもう泣けない。
大きな声を上げる余裕なんて無かった。
あなた

大丈夫、っだから。

爆豪 勝己
あなた

大丈夫だか、らっ、

嗚咽で聞こえなくならないように、堪えて、
私の出来る精一杯の笑顔で願った。
あなた

もう、1回、っ間違えてないって、言って。

爆豪 勝己
…間違ってない。
抱きしめられたままなのに、涙が止まらなかった。
勝己の回す手は力強くて、優しくて、温かい。

安心してしまう。
爆豪 勝己
あなた

勝己、ありがとう。もう、大丈夫。

夢の中だというのに、こんなにも現実味が濃いと変に複雑な思いが生じる。

私はなんて愚かなんだろう。

夢の中にまで勝己を呼び出し、お出かけさえ連れて行かせ、終いには欲しい言葉さえ口にさせてしまった。



あまりにも強欲で、罪深い。



勝己の手が離れると、私は勝己を正面から見つめて、「ありがとう」と言った。
爆豪 勝己
ん。
あなた

勝己、あのね、

爆豪 勝己
…あ?
私は勝己の両頬に手を添えると、下を向き、1度目を閉じた。
あなた

私、勝己にとても感謝してる。こんな私を見つけて、雄英に連れて来てくれて、皆にも会わせてくれて…私が辛い時、必ず傍に居てくれる。

爆豪 勝己
あなた

私ね、本当はここに居ちゃ駄目なんだよ。こんな風に誰かと関わるはずじゃなかったんだ。

私は勝己の両頬から震える手が離れないように、顔を上げて勝己の顔を見た。
あなた

私は普通じゃないから。

「へへっ」と笑う私に対し、勝己の顔は無表情だった。
あなた

でも、勝己のお陰で今、本当に幸せだよ、本当に

夢の中でしか言えない。
臆病で弱い私は夢の中でさえも真実を告げる事も出来ず、こんな言葉でしか言い表せない。

けど、今だけは…今だからこそ…





言いたい。


あなた

ありがとう、

無表情の勝己は私の顔を眺めた後、私に両頬に触れていた両手を下ろさせた。
爆豪 勝己
あなた、目閉じろ。
あなた

え、あ

閉じる前に両目を手で塞がれる。


私は勝己が何をするのか分からなかった。


けど、勝己ならいい、と思えてしまった。

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