ゆっくり目を開けると、勝己がじっとこちらを見下ろす。
その視線の先を見ると、
壊れたはずのブローチが細かく小さなチェーンに通され、私の首にかかっていた。
顔を上げた瞬間、思いっきり抱きしめられる。
驚きと同時に困惑する。
勝己の甘い匂いが私を包み、勝己の体温が感じられた。
夢の中にしてはリアルすぎる、と疑わずには居られなかった。
勝己の顔は見えず、どんな表情で、どんな感情で言ったのか分からない。
けど、その言葉だけで私は夢の中だと安心できた。
勝己がそう言ってくれた頃には、私から涙が溢れ出ていた。
あの時みたいに大きな声ではもう泣けない。
大きな声を上げる余裕なんて無かった。
嗚咽で聞こえなくならないように、堪えて、
私の出来る精一杯の笑顔で願った。
抱きしめられたままなのに、涙が止まらなかった。
勝己の回す手は力強くて、優しくて、温かい。
安心してしまう。
夢の中だというのに、こんなにも現実味が濃いと変に複雑な思いが生じる。
私はなんて愚かなんだろう。
夢の中にまで勝己を呼び出し、お出かけさえ連れて行かせ、終いには欲しい言葉さえ口にさせてしまった。
あまりにも強欲で、罪深い。
勝己の手が離れると、私は勝己を正面から見つめて、「ありがとう」と言った。
私は勝己の両頬に手を添えると、下を向き、1度目を閉じた。
私は勝己の両頬から震える手が離れないように、顔を上げて勝己の顔を見た。
「へへっ」と笑う私に対し、勝己の顔は無表情だった。
夢の中でしか言えない。
臆病で弱い私は夢の中でさえも真実を告げる事も出来ず、こんな言葉でしか言い表せない。
けど、今だけは…今だからこそ…
言いたい。
無表情の勝己は私の顔を眺めた後、私に両頬に触れていた両手を下ろさせた。
閉じる前に両目を手で塞がれる。
私は勝己が何をするのか分からなかった。
けど、勝己ならいい、と思えてしまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。