第176話

蝕む
11,018
2019/08/12 12:25
あなた

あ…

思わず声が、私の震えそうになった口から零れた。


(違う。)


私は轟くんの表情を見れば見るほど、心が苦しくなっていった。


(轟くんは怒ってるんじゃない。)



その目は、

本当に心の奥底から怯えている様で。



それを隠そうとしているからなのか、私からは怒っている様に見えていた。
あなた

…めん、ごめんなさ…い。

轟 焦凍
泣くな、私が泣く時じゃない。
あなた

本当に、ごめんなさい。

けど、轟くんをこんな風に追い詰めてしまう、
誰かをここまで辛く怯えさせてしまう所に追いやってしまう。

轟くんの怖さで震えそうになったのが、嘘のように落ち着いた。
轟 焦凍
(前にもこんな事があった。)


あの時のお母さんの姿が脳裏にフラッシュバックする。

お母さんが私にいつか言ってくれた言葉は、私の中ではもう虚偽になりかけている。





『あなた、貴方の個性はきっと誰かを、誰かの心を助けてあげられるはず。だから、自分を嫌いになったりしないで。』





でも、無理だよ、お母さん。


苦しみ歪んで見える轟くんを目の前にして、私はもう涙が止まらなかった。


私の個性で轟くんに恐怖と不安を与え、こんな風に変えてしまった。

これ以上、周りの人間のこんな顔を見る事が耐えられない。



自分の個性が、自分がもたらす、分かりきっていた結果に、


心が、


再びまた蝕まれていく。




もう…駄目だ。










あぁ、



やっぱり私は……私の個性は…



誰かを傷つける事しか出来ないんだね。

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