思わず声が、私の震えそうになった口から零れた。
(違う。)
私は轟くんの表情を見れば見るほど、心が苦しくなっていった。
(轟くんは怒ってるんじゃない。)
その目は、
本当に心の奥底から怯えている様で。
それを隠そうとしているからなのか、私からは怒っている様に見えていた。
泣くな、私が泣く時じゃない。
けど、轟くんをこんな風に追い詰めてしまう、
誰かをここまで辛く怯えさせてしまう所に追いやってしまう。
轟くんの怖さで震えそうになったのが、嘘のように落ち着いた。
(前にもこんな事があった。)
あの時のお母さんの姿が脳裏にフラッシュバックする。
お母さんが私にいつか言ってくれた言葉は、私の中ではもう虚偽になりかけている。
『あなた、貴方の個性はきっと誰かを、誰かの心を助けてあげられるはず。だから、自分を嫌いになったりしないで。』
でも、無理だよ、お母さん。
苦しみ歪んで見える轟くんを目の前にして、私はもう涙が止まらなかった。
私の個性で轟くんに恐怖と不安を与え、こんな風に変えてしまった。
これ以上、周りの人間のこんな顔を見る事が耐えられない。
自分の個性が、自分がもたらす、分かりきっていた結果に、
心が、
再びまた蝕まれていく。
もう…駄目だ。
あぁ、
やっぱり私は……私の個性は…
誰かを傷つける事しか出来ないんだね。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。