第182話

あの時(4)
10,328
2019/08/18 10:49





『無個性』と言い放った男子に飛びつくと、揉み合いになり、
腕が変化した、個性・ハサミの男子の刃物が私の肩を掠る。
あなた

っ!

少なくはない、一瞬宙に浮いた自身の血を、私は目に映すと怯んだ。

けど、それを最後に複数の男子を相手にした為、必死になりすぎて記憶がぼんやりとも無かった。

そして、気づいた時には…
ミツキちゃん
あ、あぁ…あ、あ、あなた、あなたちゃ、ん…
キナコちゃん
せ、先生、よ、呼ばないと…!
『バタバタバタッ』
先生
きゃぁぁぁあ!ど、どういう事なの?!何があったの?!
『ザワザワザワザワ』

走ってきた先生。
次に、見た事もあったかどうかも分からない人間が野次馬で集まってくる。
先生
き、木奥…あなたさんよね?
あなた

先生
貴方が、やったの…?
男子は全員泡を吹いて、白目をむいて、失神していた。

私は先生に体を揺すぶられるが、自分では何も言えなかった。何の説明も出来なかった。



結果、責められたのは "私" ではなく、保護者である "母" だった。


お母さんの担当診療室へと連れられ、じっとしていたが、何度も呼び出されるお母さんに耐えられなくなった。

そっと耳を扉に当てれば、けたたましい大人の非難の声が浴びせられているのが聞こえた。
大人
どういう事なの?!貴方、仮にも先生よね?!そのお子さんと来たら…信じられない!
大人
監督不行もいいとこだ!うちの子がもし記憶をぐちゃぐちゃにされて、壊れでもしたらどうするんだ?!
大人
そうよ!治せるの?!いや、治しなさいよ?!きっちり責任を取る、それが親ってもんでしょ?!
お母さん
大人
何か言いなさいよ!
お母さん
…では、お言葉ですが…
『バッ』

お母さんが何を言うのか、怖くて思わず扉から離れる。
慌てて心が休める所を探す。


(きっと、ここなら…)


大きなカーテンに包まる。
ぎゅっと握りしめたそばから、カーテンにシワがついたのが分かった。


(必ず…お母さんが…お母さんが…)



見つけてくれる。

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