第174話

…俺じゃない。
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2019/08/12 09:35
轟 焦凍
…俺じゃない。
あなた

轟 焦凍
来た時に壁側にあったから、木奥のバッグかと思っただけだ。違うかったなら謝る。
あなた

あ、そうだったんだ。ごめん、変な事聞いて。

(そっか、違うかったのか…)


謎が深まるなか、轟くんは本をパタンと閉じて、鞄を背負うとゆっくり椅子から立ち上がった。
轟 焦凍
リカバリーガールにだけ連絡してから帰る。
あなた

ごめん、ありがとう。

轟 焦凍
ああ。
私はゆっくりベッドから足を下ろすと、轟くんを見送る為にスリッパに足を入れた。

轟くんは内線で話終えると、そのまま玄関に足を進めて行った。
あなた

またね、轟くん。気をつけてね。

こちらを振り返らない轟くんの背に、軽く手を振る。
轟 焦凍
あなた

…ん?

轟くんは靴を履こうとしているのを止めた。
あなた

どしたの?忘れ物?

轟くんから目を離し、そこから見える寝室を覗き込む。

轟くんの物は何も無かった。





次に前を向いた時には轟くんが目の前に居て、


『ドンッ』


壁を背に轟くんに覆われても、目の前に居るのは変わりなかった。
轟 焦凍
あなた

轟 焦凍
あなた

えっ…と、轟くん…?

轟 焦凍
あなた

あの…

轟 焦凍
悪いな。
あなた

へ?

轟 焦凍
でも、木奥と話がちゃんとしたかった。
あなた

…うん、どうしたの?

轟 焦凍
…悪かった、実習の時、強要させようとして。
あなた

え、あぁ、いいよ、そんなの。怪我もリカバリーガールのおかげで、この通りだし。

私は怪我も既に治った腕を轟くんの前で見せたりして、笑った。

それでも轟くんは私から退かない。
轟 焦凍
あなた

少し長い前髪の間から轟くんの瞳が見える。
綺麗で、真っ直ぐで、鋭くて。
ビー玉みたいに綺麗だった。
あなた

轟 焦凍
でも、私が思ってるようなことを轟くんも考えてる訳が無い。
だって、こんなにも冷たい目をしている。
あなた

轟くん、他にも言いたい事があるんだよね?

轟 焦凍
ああ。
あなた

言っていいよ。私、怒ることないと思うから。

私は微笑を浮かべて、目の前に居る轟くんにそう言う。
轟 焦凍
お前、
二人称が "お前" に変わった時点で嫌な予感はしていた。
轟 焦凍
一体、何者なんだ?

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