(轟くんも、あなたさんの事…)
『ガタンッ、!』
ゆっくり立ち上がったかっちゃんの目は血走っていて、僕は振り返るなり青ざめる。
でも、只単に怒っている訳ではなく、苦しそうに表情を歪ませていた。
それから僕達は知った。
あなたさんの個性が僕らの思っている個性じゃなかった事。
あなたさんの個性は『メモリー』というもので、記憶に触れる個性持ちであるという事。
強くなりすぎた個性で僕らを傷つけないように、常に手袋を付けていたこと。
あなたさんはあるヴィランのせいで事件に巻き込まれ、
幼い頃から研究材料として扱われ、
その施設から必死で逃げてきた事。
そして、
かっちゃんに出会った事で雄英へ来たという事。
あなたさんの余命が既に残り少なかった事。
個性に身体を蝕まれ、普通に過ごす事自体が限界を超えていたこと。
あなたさんが覚悟して立ち向かっていたのは、
背景に僕達に迫る危険を回避しようとしていたという事。
基本、ヒーロー免許を持たない僕らが個性を行使してヒーロー活動をするのは許されない。
ただ、僕は、
(もし僕があなたさんと同じ立場だったら…)
きっと彼女と同じ事をしたと思う。
相澤先生が全て話し終えると、丁度チャイムが鳴った。
淡々と言葉を並べた相澤先生は静かに教室を出て行った。
僕達の沈黙は誰かが破ることも、誰かに破られる事も無かった。
ただ、時間がゆっくりと流れ、
僕達の前を過ぎていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。