『保健室』と聞いて、リカバリーガールの顔が自然と浮かんだ。
只でさえ毎日診てもらってるのに、こんな小さな事でお世話になる訳にはいかない。
それにリカバリーガールを前にすると、無意識にも甘えてしまいそうになる。
謹慎2日目の時もそうだった。
力いっぱい抱きしめられた際、母親の様な優しい温かさを感じた。
どうにも私は、リカバリーガールとお母さんを重ねようとしているらしい。
轟くんは私の身体の事を知っている。
このフィールドに居る、誰よりも知っている。
私の置かれた身体の状況も、もう既に時間が無いことも。
それを意識すればするほど、私の目は轟くんとは合わせずらくなってしまった。
その間も流れ続けているのだろう。
押さえたティッシュがじんわりと赤く染まっていく。
生温い感覚と共に、湿ってゆくティッシュが鼻先の大部分に触れる。
轟くんの視線が明らかに血の滲んだティッシュに向けられているのが分かった。
私は目元に笑みを乗せて、轟くんに言う。
轟くんは何も言わず、私の顔をしばらく見ていた。
そして、それから口を開いた。
轟くんは私の片腕を轟くんの首へ掛けさせると、ゆっくり歩き出す。
(前の制服の事もあるし、これ以上は私の血なんかで汚させるのは…)
三奈さんや瀬呂くんの声を背中に受けて、私は轟くんにリードされながら足を進めていく。
が、
『ガクンッ』
皆の目が届かなくなった途端、突然、右足に力が入らなくなってしまった。
いつも冷静な轟くんも流石に驚いたらしい。
身体を支える事もままならなくなった私の足。
右膝からしゃがみこむ様に体勢が崩れるのを、轟くんが慌てて支える。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!