血のシミのようなものが広範囲に広がっていた。
それを見て洗濯後の物だとは分かったが、俺は黙ってそれをテーブルの上に戻した。
寝室に改めて向かうと、あなたは死んでるんじゃねぇかってぐらいに安らかに眠っていた。
(カーテンも窓も締め切ったまんまかよ…)
『カラカラカラ…』
夏もかなり近くなった割には、まだ少し涼しい風が部屋に吹き込む。
窓と厚めのカーテンを開けて、薄いレース状のカーテンだけが風に舞うようにする。
俺はあなたを起こす為に近寄ると、ベッドの反対側のサイドテーブルに目がいく。
『ギシッ』
サイドテーブルの上の透明の袋に入ったものを手に取る為に、あなたの上を俺の体が通ろうとする。
あなたの少し長くなった髪の上に手を付けないよう、白いベッドのシーツの上に手をつけて身体を支えた。
『ギシッ…』
手に取ると直ぐに分かった。
この間、1-Aの奴らで探した例のブローチだ。
あまりの破損の酷さに、誰も何も言えなかったのを覚えている。
ブローチを見つめていた時だった。
『スッ……ギュッ……』
俺の首に寝ていたはずのあなたが手を回し、しっかり抱きついてくる。
あまりの唐突にうまく言葉が出ない。
シャンプーのふわふわした匂いが微かに香って、あなたの細く華奢な腕や指先が触れた所から俺の身体は高騰していくようだ。
(…クソっ///)
掠れる声が耳元で聞こえた。
苦しそうだ。
俺の首の根元に顔を埋めているので、よく表情は見えない。
けど、多分、夢ん中だ。
どう引き剥がそうとしても離れないこの腕に、俺はため息を零す。
(人の気も知らねぇ癖に…)
俺はあなたの背に手を回すと、一緒に横になった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!