個性強制増幅剤が打たれる前の私なら、
個性を使って相手から記憶のフィルムを出させるのは、出来ても1本だけだった。
打たれた後は制御が出来なくなり、
記憶のフィルムを出させようと少しでも意識すれば、産まれた頃の様な本人が覚えていない記憶まで出してしまう。
大量のフィルムが目の前で絡まりそうな状態にあるのは理解出来る。
只、
明らかに一人分じゃない。
頭上で広がる大量のフィルムの中身を見上げると、
明らかに違う人物が主体のものが2人、
3人、
4人、
…いや、明らかに7人は居た。
7人の中にはジッパーの手下、逃亡する私を施設内で追っていた者が含まれていた。
その他に、
一般人の姿もあった。
見覚えのある人間を見た。
私に声を掛けたチャラい男の人だった。
被害者は私に声を掛けたこの男で、登校中に勝己と事件現場を見た。
『被害者は救急車で運ばれたらしいけど、かなりの重症らしい。』
現場で勝己が口にした台詞。
『でも、死なないよ。』
私は言い切った。
『現代の医療技術なら多分、何とかなると思う。とにかく、』
そうだ、
『私なら死なない。』
本当に死ななかった。
死ななかった結果、
私の匂いが残ってた彼はジッパーの元に送還され、ヘロインという混合体の一部にプラスされた。
私の様にジッパーが記憶を見れないとしても、あの現場付近で私と会った情報があれば、
この町の範囲で身を隠してる事もおおよそは検討がつく。
個性を増やし、力も上げたヘロインは再び私の匂いで行方を辿り、
森での実践演習時にコンクリートブロックを投げて寄越した。
障子くんが、
常闇くんが居なかったら、
確実に轟くんの全てに被害があった。
全てがパズルのピースのように合った瞬間、視界が上から暗くなるような気がした。
『ギロン』
ヘロインの首が突如私を見下ろす。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。