「カナヤ〜!!起きてるかー!ちょっと来てくれー!」
我が家に低い男の人の声が響いた。いや、正確には住まわせてもらっている家だ。
「はい‼️すぐに行きます!」
私は返事をした。
ここはイングザンド帝国の16番目の首都、ルーグ。多彩な種族が行き来し、交流する場所。
私はここのルーグ辺境伯にお世話になっている。
何故、何個も都市があるとかといえば
それはこの世界には魔獣がいて尚且つ、魔法が存在しているからである。
そしてそれらが巻き起こす魔獣のスタンピードが問題となったためで、それというのも、5年ほど前に私が産まれたとされる故郷はスタンピードによって破壊されたらしい。
それはこの世界にとって類を見ない大災害で、ここが最後の砦となり今は辺境伯となった。
その時に潰されたところに都市があり大打撃を受けて、考え方が変わった。要するにみんなの集まる場所をあらかじめ決めておこうというわけだ。
そして今となっては見る影もないが元々ここは首都のグリーン・ウッドと呼ばれ、とても豊かな土地だったという。
だから私はただの居候であり、その家のもの達にとっては邪魔でしかないということだ。
そもそも何故そうなったかといえば、私だけがその魔獣のスタンピードを不幸にも生き残ったためである。
そして私は何故生き残れたかを知っている。
偶然の通りかかった謎の"それ"が"特別に"力をくれ、力に私が守まれるように包み込まれたために助かったというわけだった。
それで私が声を上げた時に助けに来てくれたのが、ルーグ辺境伯だった。
しかし、何故孤児院ではなく辺境伯家の屋敷にいるかと言うとルーグ辺境伯がかなりの変人だったとしか言いようがない。
可哀想だという理由1つで私を養子にして、ここまで育て上げたのだからね。
ルーグ辺境伯にはとても感謝している。
しかし周りの人達はその事実(力のことやルーグ辺境伯の独断で養子にした事など)を知らないため、目の上のたんこぶ扱いをされている。
何故独断だったのかと言えば、そこにはルーグ辺境伯なりの優しさがあった。
そもそも、魔獣のスタンピードの中を小さな赤ちゃんが生き残れる訳が無いという事だ。
私の本当の出生場所を知っていて尚且つ、私が何かの力を宿していると分かっているのはこの世界に3人しかいない。
1人目はルーグ辺境伯で2人目がルーグ辺境伯と一緒に私を見つけた執事のマーセル、そしてこのイングザンド帝国の王、マニフェル・イングザンド陛下その人だけだという事。
私が疎まれる原因というのが、ルーグ辺境伯は魔獣のスタンピードを止めた功労者として英雄扱いされていて、またルーグ辺境伯には子供がいなかった為に他所から来た子供にいい感情が向かなかったのだった。
そして私は今日もまた屋敷でルーグ辺境伯の養子として周囲に疎まれながらも勉強し、力を付けるまでだ。
成人するその日まで。
しかし誰も気づかないが5歳児でここまで理解しているということは、はっきり言って天才、或いは人外、化け物であることに変わりはないのだ。
単に本人が口下手なせいもあるのだが、それにも本人は気づかないまま進んで行くことになる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!