第4話

世界にたゆたうもの達へ
22
2021/09/19 13:52



彼女の7歳と3ヶ月程たった頃だった。


ルーグ辺境伯の屋敷に何か黒いモヤのようなものが入ってきた。






それは突然であった。






そもそも何故、入ってきたのが分かったかと言えば彼女が結界を自作していたからだった。




彼女本人はそれを普通だと思っているが、全然普通では無い。

というか、誰も教えていないのにいつの間にか彼女は魔法が使えるようになっていた。




「っっ‼️」


急いで廊下を渡り、ドアを開けて、まるでスライディングする様に鮮やかに右へと曲がったところにその黒いモヤはいた。



そしてそれを彼女は自然と受け入れた。まるで元からそこにあったかのように。



(彼女は思った。

何なのだろう?この変な物体は。
まぁ、結界を抜けて来れたんだから悪い奴ではないんだろうな。
それにしてもどうしたらいいだろう?
まぁ、なるようになるか!)



要するに彼女はそうして楽観的すぎる考えで、勝手に入ってきた黒いモヤの正体が分からないまま受け入れたのだった。




"それ"がこれから一波乱起こすとも知らずに。






「そこじゃ寒い。入って。」





コクッ

何故か、その黒いモヤが感動して頷いたような気がした。








その夕方頃、ルーグ卿と一緒に夕食をしている時にその黒いモヤはまた姿を現した。



しかし、何も起こる気配が無い。







何故か…それは
そもそも彼女以外には"それ"が認識されてないためである。






しかしそんなことにも気づかない、もといそれを普通だと勘違いしている彼女は
そこに居る黒いモヤを「ここに居てもいい」と屋敷の人達に肯定されているのだと勘違いした。






そして彼女はこの黒いモヤがいる方向に笑いかけた。

"良かったね"と口パクで呟いて…









それから数日たったある日…
何やら屋敷の中で沢山の気配がすると思ったらそこには沢山の黒いモヤがいたとか。








そして彼女はある日、いつもより早く布団に入って夢を見た。


それは現実だと勘違いしまう程に鮮明な夢であった。




誰かの人生だった。
それはとても残酷で悲しい夢。

最初は少女の視点からだった。



その少女は怯えていた。いや、睨んでいたのかもしれない。周りには大きな銃を持った人間が沢山いて、笑っていた。

何か言っていたが何語か分からなくて「何を言っているんだ?」と思っていると、何を言っているのか分かるようになった。
それこそがこれが夢である事の証明であると言えた。



そのよく分からない軍服姿の男性の1人が銃を少女に向けて突きだし、言った。

「早く行け!」

その男性は銃で少女の背中を押した。




それから少女"達"が進んだ先は鉄の扉が嵌められて外に出られないようになった監獄要塞ようだった。そう、少女達は迫害されていた。



少女達が向かうところは言わば死刑場。



少女と同じ様に様々な大人や子供がいた。

少女も少女とて、泣かなかった。
いや、泣けなかった。



進んだ先は地獄なのだろうか。はたまた天国なのだろうか、その時の私にはまだ分からなかった。





そして視点が入れ替わった。

今度は男性の視点だった。



彼は涙で顔をとても濡らしながら銃を持って武装した人達に言われて嫌々、壁に膝立ちで立たされていた。


「嫌だ‼️まだ死にたくたい!!」

彼はそう言っていた。



そしてよく分からない軍服を着たその場の1番偉そうな人が口を開いて言った。

「最後に一言、言い残したことはあるか?‪w‪w‪‪w」



彼らはまた笑っていた。

人の死を前にしてまで。もしかしたら、それは他人だからこそなのかもしれない。




彼は言った。

「あぁ、妻と…子供たちに、すまないと伝えて欲しい。ああ、妻が…」




その場の偉そうな人が言った。

「一言だと言っただろう?‪w」



その瞬間、

ドンッ‼️ドンッ‼️ドンッ‼️


彼が言い終わらないうちに銃声が聞こえた。


体が反り返って、何が打ち込まれたのかがよく分かった。


冷たかった…




彼らの笑い声が聞こえる。

そして、最後に彼が見たものはその"少女"だった。


少女は瞬きもせずにそれをただ見つめていた。




その時、少女が何を思ったかは分からない。
しかしそれは、きっとその後の少女の行く末だったのかもしれない。








「はっ‼️」

彼女が目を覚ました時はまだメイドさえも起きてない早朝だった。

まるで昔の歴史を見たかのような夢だった。



そして彼女は祈った。

どうかあの少女があの男性が、幸せであります様にと。


一筋の涙を流しながら。




それから同時に彼女は3つの物が嫌いになった。
それは死と、銃と人間であった。


そして彼女は死と生について、たった7歳にして考えを巡らした。
最後に彼女は少女の死を見る前に目覚めたことについて、きっとまだ終わっていないのだろうと。あの少女に救いが舞い降りますように。
私は少女達を少しでも幸せにしようと決めたのだった。






そうして1日が始まり、終わったのだった。







「ふんっまた厄介なのが出張って来たな。」

彼は闇夜にそう呟いた。



ガサッ

草の音がするほうを向けば、月夜に照らされて白く光輝く翼で淡い暖色の着物を着ている女人が立っていた。



「あんたはまたそんなこと言って。本当は寂しいんじゃないのかい?」


「はっ、勝手に入ってきた癖に何を言うか!!それ以上、口にしてみろ。次はないと思え。」


彼はその赤い瞳を滾らせその女人に手に持った10cm程の短剣の刃を向けた。

女人の首筋から一筋の血が垂れた。


「はぁ、これじゃあ冗談もありゃしない。ほんと、強情っぱりな奴だねぇ。今日はあんたの目にかけてる子供だっけか?見に行ってやったよ。まぁ精々頑張りな。」


「お前はもう行くな。目障りだ。」


「ほんと、釣れないねぇ。でもそういうとこがいいんだろうねぇ。」


女人はその金色の髪をはためかせながら、呟いた。





この時、世界にたゆたうもの達との接触を果たした彼女本人は至って真面目に
「今日起きたことはきっと普通にある事なのだ。でもあの人達はまたあの歴史を繰り返さないために私に見せてくれたんだな。」と見当ハズレな考えを巡らしていたのだった。




やはりまだ常識を知らない幼い子供なのであった。

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