どういう事?
なんで陽太は……。
思わず心の中で突っ込んだけど、それどころじゃない。
そう言いながら陽太はスマホを取り出した。
あたしは陽太にそう詰め掛けたつもりだった。
だけど、あたしの言葉に反応したのは、健先輩だった。
突然先輩の様子が変わった。
すごく冷たい話し方で、陽太を睨みつけた。
陽太の言葉は無視して、先輩はにっこり王子様スマイルであたしと向き合った。
嘘だ。信じない。信じたくない。
それなのにーー。
はっ? 何言って……。
先輩の口から繰り出される言葉が、上手く理解出来ない。
陽太は先輩の胸ぐらを掴んだ。
陽太は先輩の胸ぐらを掴んだ
まま、空いた片方の手で握りこぶしを作り、先輩に殴りかかった。
けど、そのまま陽太の拳が先輩に届く事なく、逆に先輩に突き放された。
突き放された勢いで後方に転倒した陽太を、先輩が足蹴にしようとした、その時ーー。
先輩は股間を抑えて、その場に屈み込んだ。
それもそのはず、あたしは後方から先輩の股間に思いっきり蹴りを入れたからだ。
王子様だと思ってた。先輩は理想の王子様だと思ってた。
先輩は理想の王子様なんかじゃ、全然なかった。
理想と現実は完全に違った。
先輩は股間を抑えたまま、目を見開いてあたしを凝視している。
先輩は、今度は片手で口を押さえて青ざめ始めた。
なーにが王子様だ。なーにがイケメンだ。
全部理想なんかと違ったし、全部嘘だった。
固まったままの先輩を残して、あたしはその場を立ち去った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!