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第13話

ファーストキス
春奈
春奈
ちょ、陽太、待ちなさいよ!
先輩が去った後、陽太は何も言わずに家の中に入ろうとするから、あたしはそんな陽太の背中を引っ張った。
陽太
陽太
なに?
振り払われた手。陽太は再びさめざめとした目であたしを見据えた。
春奈
春奈
なに?   じゃないでしょーが!
邪魔しないでよね!
陽太
陽太
邪魔はそっちでしょ?   ここ僕の家の前だし
春奈
春奈
入り口が隣り合わせなんだから、ここはあたしの家でもあるでしょうが!
玄関までの門構え、柵は一歩隣というだけの距離。

陽太の家の前と言われると間違いでもないけど、どちらかといえばあたしの家の敷地前と表現した方が正しい。
春奈
春奈
いい加減、あたしの事は諦めなさいよ!   あたしには彼氏もいるんだから、陽太こそさっさと彼女でも作れば?
陽太
陽太
それって百合花ちゃんとか?
春奈
春奈
そう、百合花とか……って、え?
陽太
陽太
知ってるよ。春奈ちゃんが僕と百合花ちゃんをくっつけようとしてるって
えっ、なんで?   っていうか、えーっと、どう反応したらいいのかわからない。

あまりにも不意打ちだった。

百合花が陽太に好意がある事はあたしの口から言う事じゃないし、かといって、それならこの場合なんて言えば角が立たないんだろう。
陽太
陽太
今日の映画の事だってどう考えても変でしょ。明らかに仕組んでる感じしたし
春奈
春奈
えー、どこがぁ?
あたしは思わず視線を泳がした。

そんなあたしに釘でも刺す勢いで陽太はじっと見ている。
陽太
陽太
だって春奈ちゃん、映画のチケットをわざわざ前もって買ったりしないじゃん。なんで今日に限って用意周到なのさ?
春奈
春奈
たっ、たまたま!   だってチケット取れなかったら嫌じゃん。まだ新作映画だったし
陽太
陽太
新作は春奈ちゃんが見た方の映画で、僕が見たのは新作なんかじゃないから、席もスカスカだったけど?
春奈
春奈
あっ、あれー?   そそっ、そうだっけ?
うぐ、鋭い奴め。こういうところ鈍感でいいんだけど……。
陽太
陽太
しかも今日の映画は春奈ちゃん前から観たいとか言ってたのに、チケット買ったの忘れるほど、春奈ちゃんはバカ女じゃないでしょ
またバカ女って言われた。でも言い返せない。

あたしは苛立ちと焦りからこの場を立ち去りたくなった。
春奈
春奈
それより!   ちゃんと百合花は送ってあげたんでしょうね?   あっ、送り狼になってたりして〜
なんてジョークを言いながら、あたしは肘で陽太の脇腹を小突いた。

ジョークでも言って誤魔化そう魂胆だ。
陽太
陽太
しないよ。僕をどこかのハレンチ野郎と一緒にしてほしくないんだけど
春奈
春奈
それ、先輩の事言ってるでしょ
陽太
陽太
それ以外に誰がいるんだよ
春奈
春奈
いいんだよ!   あたし達は付き合ってるんだか、ら……
陽太に噛み付く勢いでそう言った瞬間だった。

陽太はあたしの腕を掴んでグイッとあたしを引き寄せ、そのままーー。
春奈
春奈
……っ!
な、にすんのよ!!
あたしは陽太を思い切り突き放した。

あたしと陽太の間には、腰の高さの柵がある。それがガシャンと音を立てて揺れた。
陽太
陽太
キス、したかったんでしょ?
あたしは陽太の頬を思いっきり引っ叩いた。

乾いた音とともに、陽太の頬を赤く染め上げていく。
春奈
春奈
……信じらんない!
本当に信じらんない……!

陽太のくせに、陽太のくせに……こいつあたしに、キスした!
春奈
春奈
あたしはあんたとキスしたかったわけじゃないんだから!
あたしは苛立ちから口元を服の袖で拭った。

何度も、何度も。
春奈
春奈
あたしのファーストキスだったのに……
陽太
陽太
……えっ?
子供の頃からずっと夢見ていた、ファーストキス。

そのキスはどんなシチュエーションでするんだろうってずっと想像してた。

だからこれは、違う。これはキスなんかじゃない。
陽太
陽太
待って、今なんて?
あたしはひたすら口元を拭い続けながらその場を立ち去ろうとしたのに、今度は陽太があたしの腕を掴んでそれを止めた。
春奈
春奈
離してよ!
陽太
陽太
ファーストキスなわけないでしょ?
だって僕知ってるよ。春奈ちゃんは健先輩とこの間キスしてたじゃないか
はぁー?   いつの話してんのよ。

そう思いつつあたしは無視して陽太の腕を振り払おうとするけど、力強い陽太の手は振り払えない。
陽太
陽太
だって、この間校庭で……
春奈
春奈
してないわよ!   ってかまだしてなかったのよ!
そもそも、覗き見してたの?!
陽太
陽太
だって、僕はてっきり……
ごめん
春奈
春奈
ごめんですんだら警察なんていらないんだよ!
ファーストキス返してよ!
ゴシゴシと唇を擦り続けてると、鉄の味がして唇がヒリヒリする。

だけど、あたしはそんな痛みよりもあの感触を拭い去りたかった。

柔らかい人の肌の感覚ともまた少し違う、唇の感触。

ずっと幼なじみだと思ってた陽太の唇。

それが生々しくあたしの口元に居座っている。
陽太
陽太
それ以上擦らないで。血が出てる
春奈
春奈
だから誰のせいでーー!
陽太
陽太
本当にごめん。ごめんなさい
陽太のつむじ、久しぶりに見た気がする。

陽太はあたしに向かって頭を深々と下げていた。

春奈
春奈
(あ、あれ……?)
陽太のつむじを久しぶりに見た?

陽太ってあたしより身長低くなかったっけ?

いつの間に陽太はあたしの身長を追い越していたんだろう……?
春奈
春奈
と、とにかく、陽太とは絶交だから。
じゃあね
あたしはただ、逃げるように陽太の手を振り払って家の中へと逃げ帰った。

部屋に入って外を確認してみると、陽太はじっとあの場所に立ち止まったまま、しばらく空を見上げていた。