校庭に着いて、あたしは先輩に向かって振りかぶる勢いで頭を下げた。
しかもあたしのせいで陽太が先輩に絡んでああなったのだから、申し訳ないという気持ちがどうしても湧いて出てくる。
だけど、先輩はそんなあたしを一瞥した後、こう言った。
ふいっと顔を背けた先輩に、あたしは胸の奥でもぞもぞと何かが這い上がってくる感覚を抑えられずにいた。
夢のようだと思った。
ずっと憧れていた先輩が彼氏だって事も夢じゃないかって何度も思ったけど、これは現実離れして起きている。
だけど、これも全部夢なんかじゃないんだ。
だって目の前にはヤキモチ妬いて可愛くふてくされている先輩の姿があるから。
夢ならこんな事想像すらできないと思う。
陽太なんてむしろどうでもいいし。
けど、先輩がこんなに妬いてくれるのなら陽太には感謝くらいしてもいいかもね。
陽太に感謝なんて、あたしの人生で最初で最後だけど。
ははっと、力なく笑う先輩に、あたしの心臓はドキュンという凄まじい音を奏でた。
むしろ先輩になら縛られまくったっていい……!!
校庭のベンチに座るあたし達。先輩はあたしとの距離を更に縮めて座った。
そんな甘い言葉を言いながら、先輩はあたしの結んだ髪の先をひと束取ってそこにキスをした。
あたしは慌てて顔を上に向けた。鼻血が出てきそうで血の匂いが鼻腔内に広がったから。
上に向いたせいで、背の高い先輩を見上げる形となった。
でもそれはキスして欲しいと迫っているように捕らえられなくもない。
現に先輩はあたしの髪を離して、徐々に顔の距離を縮めてくる。
いつから先輩はあたしの事好きでいてくれたんだろう……?
聞きたいけど、今聞いたらこの雰囲気を壊してしまいそうで。
彼氏いなかった歴17年と3ヶ月。
そして今日があたしの新たな記念日。
甘い声でそう言って、先輩が目と鼻の先までやって来た時ーー。
目を閉じて、あとは先輩の口づけを待つばかり……そんな時だった。
あたしは顔をそらしてしまった。
先輩との距離はまだ変わらない。すぐそばにその整った顔がある。
だけどーー。
先輩はあたしが晒した横顔にそっとキスを落とした。
あたしは慌てて弁解しようにも、上手い言い訳が見つからない。
あたしは先輩がキスした頬を手でおさえながら、こう思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。