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第20話

きっと、恋にはならない
気がついたら、授業はとっくに終わっていた。

授業中あたしの頭の中で繰り返し響いていた言葉は、百合花に言われたあの言葉だ。


ーーそれって全部、陽太くんの事だよね?

ーー素直になりなよ。
春奈
春奈
(素直にって……あたしと陽太は幼なじみだし……)
あたしは再び口元に手を当てた。
春奈
春奈
(陽太の唇、思ったよりも柔らかかったな……)
ーーいつまでも幼なじみだからなんて言ってたら、いつか陽太くんは春奈ちゃんの隣からいなくなっちゃうかもしれないよ?
春奈
春奈
(陽太が?   まさか。ずっとあたしにつきまとってきてたあの陽太が?   あれだけ突き放してもいつもあたしにまとわりついてきてた陽太が?)
ないない!   なんて声に出して言って、あたしはあははと笑った。

だけど、実際今回は陽太があたしから離れた。たった2日間だけだったけど。

それでも今までは毎日毎休み時間会いに来てただけに……なんだか心にポッカリと何にもない真っ白な空間が出来たみたいに寂しくなった。
春奈
春奈
(柊先輩は、陽太のどこが好きだったんだろ……?)
口が臭いし貧乏ゆすりして落ち着かない健先輩だったけど、それでも健先輩はかっこいいし、モテる。

そんな健先輩の元彼女で、多分今だに想われてるんだろうなって思う柊先輩もかなりの美人だ。
春奈
春奈
(それに、百合花だって……)
もう振られたような事言ってたし、またあたしの事を陽太とくっつけようとしてるけど、百合花だって陽太の事が好きなんだ。
春奈
春奈
(みんな、なんで陽太なんだろう)
ーー他の誰かに取られても、春奈ちゃんはそれでいいの?
春奈
春奈
(あたしは……)
そう思った時だった。
陽太
陽太
春奈ちゃん!
あたしの耳をつんざくように叫んだかと思ったら、陽太があたしの背後から現れて、思いっきり抱きとめられていた。
春奈
春奈
(えっ、なに……?)
状況が読み込めなくて驚いた顔で惚けていると、目の前を勢いよくバイクが通り過ぎて行った。
陽太
陽太
……驚かさないでよ
そう言って、陽太はあたしの身体をさらにぎゅっと抱きしめた。

陽太の温もり。陽太の匂い。昔となにも変わらない。

……変わらないはずなのに、あたしの体内の血が勢いよく流れ始めて、鼓動が早い。
陽太
陽太
心臓、止まるかと思ったよ
春奈
春奈
……あ、んなの、大丈夫なんだから。来てるの気づいてたし!
あたしは陽太の身体を思い切り引き離した。

すると、陽太は悲しそうな目であたしを見た後、ふいっと目を逸らした。

引き離したのはあたしの方で、悲しそうな目をしているのは陽太の方なのに、あたしの方が悲しい気持ちになるのは何故なんだろう。
陽太
陽太
……とにかく、気をつけてね
春奈
春奈
よ、陽太
呼び止めながらあたしは、陽太のシャツの裾をキュッと掴んでいた。
春奈
春奈
えっ、えっと……
呼び止めたものの、なにを話せばいいのか分からない。

そもそも呼び止めるつもりなんてなかった。
春奈
春奈
なんで百合花の事振ったの?
しまった。こんな事言うつもりなんてなかったのに……そう思うけど、他に言葉が見つからない。

挙げ句の果てには。
春奈
春奈
柊先輩の事だったそうじゃん!   あんな美人振るなんて陽太、あんたどっかおかしいんじゃない?
陽太はじっとあたしを見つめたまま、何も言わない。

その沈黙に耐えかねて、あたしはさらにヒートアップしていく。
春奈
春奈
幼なじみがモテるなんて鼻が高いけど、ちょっとお高く止まりすぎなんじゃない?
陽太
陽太
……
春奈
春奈
あっ、てか、理想が高すぎるとか?   だから簡単にあたしにだってキスとかしちゃったんでーー
ーードン。と、陽太は道路脇の塀、コンクリートの壁を殴った。

いつのまにか道路脇にあたしは追いやられていたみたい。
陽太
陽太
僕が好きなのは、春奈ちゃんだよ
あれ……?   って思った。

陽太って、こんな大人みたいな表情、できたっけ……?

男の子、じゃくて男の人、って顔で怒れたっけ……?
陽太
陽太
好きな子とキスしたいって思うのって、そんなに変なこと?
春奈
春奈
あっ……
陽太
陽太
そりゃ告白されたって断るよ。それは好きな子からの告白じゃないんだから
正論すぎて、言い返せない。

ううん、もしかしたらこの雰囲気にのまれて言い返せないだけかもしれない。
陽太
陽太
それって、そんなに変なの?
陽太はあたしの髪から一房取って、それを自分の口元に寄せた。

それは健先輩がよくしてたみたいに。
春奈
春奈
……!
陽太
陽太
……顔、赤いよ?
陽太が、陽太じゃないみたい。

こんな陽太は、あたしの知ってる幼なじみの陽太じゃない。
陽太
陽太
もしかして、ドキドキしてる?
春奈
春奈
しっ、してないしっ!
声が裏返った。
陽太
陽太
春奈ちゃん、もしかしてだけど、僕の事が好きになった?
体温がピークに達した、気がした。
春奈
春奈
なっ、ないない!   あたしと陽太なんて……
陽太
陽太
本当に?   全くない?
突然、陽太が真剣な目であたしを射抜くから、あたしは思わず口をつぐんだ。
陽太
陽太
今後一切、僕たちが恋人になる可能性って万に一つもない?
陽太はさらに畳み掛ける。
陽太
陽太
本当は、どうしてもダメなんだったら僕は……春奈ちゃんをちゃんと諦めないといけないって思ってるんだ……だから答えてよ
春奈
春奈
……!
陽太
陽太
本当に、春奈ちゃんは僕の事好きじゃない?   彼氏としては見れない?
そんなたくさんの事を一度に言わないでよ。

あたしの脳はパニックを起こしていた。

そしてーー。
陽太
陽太
えっ?!   ごめん、春奈ちゃん。ごめん。だから、泣かないで
泣くつもりなんて、なかったのに。


陽太が違う人に見える。でもそれっていい事なのかな?

あたしが陽太と付き合ってみて、やっぱり違うって思ったら、陽太とはもう今までみたいな幼なじみの関係には戻れなくなる。

それは悲しい。先輩と別れた時よりももっともっと悲しくなる。
陽太
陽太
泣かせるつもりなんてなかったんだけど……。ごめんね
そう言って陽太はあたしの頭をポンポンって撫でた。
陽太
陽太
ごめん、ごめんね
あっ、なんだ、そっか。そうだったんだ……。


やっと、今頃になってやっと分かった。

17年かかって、やっと……。
春奈
春奈
……これはきっと、恋にはならないよ
あたしは頭のどこかでこう思ってたんだ。

きっと、あたしのこの想いは、恋にはならないって。

だってこれは特別な気持ち。

特別な気持ちなのは、幼なじみだから。

だからこれはきっと、恋なんかじゃないんだってーー。
春奈
春奈
あたしが陽太に恋しちゃって、付き合ったらきっと、いつか終わりが来るかもしれないじゃん。だからーー
陽太
陽太
……なにそれ
きっと、恋にはならない。

そう思っていた地点できっと、あたしはすでに恋心を抱いていたのかもしれない。
陽太
陽太
じゃあやっぱり、春奈ちゃんは僕の事が好きって事?   好きだけど関係が壊れる事が怖くて付き合わないって事?
春奈
春奈
だから
陽太
陽太
僕は春奈ちゃんが僕の事を好きなのかどうかが聞きたいんだ。他の事はどうでもいいよ
どうでもいいって……。
陽太
陽太
先はどうなるか分からない。だからこそ今が、今の気持ちが大切なんじゃないの?
春奈
春奈
そう、だけど……
陽太
陽太
春奈ちゃん“今”が、“未来”に繋がってるんだよ
陽太はあたしの涙を指の腹で拾うように拭った。
陽太
陽太
ねぇ、僕の事が好き?
それとも、嫌い?
春奈
春奈
……
ーー素直になりなよ。
そんな、百合花の言葉があたしの脳内を駆け抜けた。

だけどあたしは素直じゃない。特別陽太の前では、なかなか上手く素直になれない。

だからーー。
陽太
陽太
……!
あたしは、陽太にキスをした。

言葉ではなく、行動で。

言葉だとどうしても感情が邪魔をしちゃうから。

ひねくれた性格が邪魔をするから。だからーー。
春奈
春奈
……
顔が熱い。俯いて火照った顔を落ち着かせようとしたのに、陽太はあたしの顔を持ち上げて、もう一度キスをした。
春奈
春奈
……!
ゆっくりと唇が離れた後、陽太は目と鼻の先で、囁くようにこう言った。
陽太
陽太
……逃がさないから
そしてもう一度、ついばむように、さらにもう一度。
春奈
春奈
すっ、ストップ!
さすがにあたしの脳が痺れ始めた。

胸を焦がすような感情と、とろけるような、キスに。
春奈
春奈
ちょっと、落ち着いてって!
陽太の身体を引き離すために伸ばした手は、陽太の手によって絡め取られて身動きが取れなくなった。
陽太
陽太
17年待ったんだよ。もう待てない
そう言って再びキスされて、あたしはそのままこの恋にのまれていくように、黙って目を閉じた。

脳が痺れる感覚。

だけどそれも悪くない。

麻薬にも似た感覚に、酔いしれ始めていたその時。
陽太
陽太
今度は、僕と同じくらい僕の事が好きでたまらなくしてあげる
きっと、恋にはならない。

それは“きっと”、“たぶん”。


だけど決して、“絶対”なんかじゃないんだーー。