陽太が去って、やっとあたしの安息の時間が戻ってきた。
それなのに百合花のホットな話題はまだそれらしい。
あたしは立てひじをつきながらあくびをひとつ零した。
可愛いっていうのはまぁ、分かるにしても、カッコいいはなくない?
しかもあたしの言う可愛いっていうのともちょっと違うと思うし。
昔は女の子みたいにすぐに泣いてあたしの後ろに隠れて震えてるような子だったから、陽太がもし女の子だったのなら可愛いかったかも……とは思えなくもないけど。
健先輩は二つ年上の同じ学校の先輩。
サッカー部で爽やかな先輩は誰もが一度は憧れるであろう人気者だ。
カッコよくてジェントルマンな先輩。その上スポーツもできるんだからまるで絵本の中の王子様みたいだと初めて見た時からの一目惚れだった。
健先輩と比べると陽太なんて月とスッポンだと思う。
陽太は頭は良い方だと思うし、見てくれだって正直悪くない。だけど、男らしさとかそういうものが一切感じられないというか。
基本的に無気力というかやる気ない省エネな性格してるから、運動なんて不得意で、まるで先輩とは対照的な位置にいると思う。
まっ、待って、それって……。
百合花の頬が少しずつ赤らんでいく様子を見て、あたしの頭はひとつの答えを導き出した。
百合花は今や茹で上がったタコのように顔が真っ赤だ。
それにしては顔真っ赤だけど、真っ赤にするほど否定したいとか……?
でもそれなら納得できるかも……なんて思ってあたしは考えを改めた。
えへへっ、て笑いながら誤魔化しついでにあたしは百合花にウインクを飛ばした。
百合花はあたしの立てひじついてる方の腕をぎゅっと掴んで、ズイッと顔を寄せた。
その表情が鬼気迫るような圧を感じて、あたしは身を引いた。
百合花の迫力に負けてそう謝ったときだった。百合花は耳打ちするようにそっと、こう言った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。