ガタッ、とポチが席を立つ。
ギュッと、ポチが抱きついてくる。
凄ぇいい奴…というか、愛されてきたんだな。こいつ、
ぽんぽんとポチの頭を撫でる。
グイッと顔を押して俺から離す。
と、席に着く。
ー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ーー*ー
幼稚園の発表会には必ず夫婦揃って見に来てくれたり、
俺を挟んで3人でベッドで一緒に寝たり、
いっぱい愛してくれる大好きな家族だった。
小学校を入学したあたりから、
父さんが店を出し初めて、店が評判になるにつれて、
少しずつ一緒に入れる時間が少なくなった。
小学校2年生の時の、母さんの誕生日。
家族より儲かる店にへと興味を持ち始めた母さんに、
また俺に興味を持ってもらいたくて、
また3人で楽しかったあの頃に戻りたくて、
喜んで貰えるように店の事をしようと、
父さんがいる店のキッチンに行った。
まだ身長も伸びてなくて、届かないから台を持って。
バチッと、フライパンから油が跳ねて俺の頬に飛んで来た。
びっくりした勢いで、台から足を踏み外し、
何処か掴もうと伸ばした手がフライパンに当たって
俺めがけて落ちて来る。
フライパンが落ちた音に気づいたのか接客していた
母さんが慌てて厨房に戻ってきた。
その後すぐに病院に行って見てもらったけど、
俺の代わりにフライパンを被った父さんはやけどを負って
店は閉店。
と慰めてくれる父さんとは違って、
母さんは俺を見離すようになってしまった。
はっきり 俺のせい だとは言ってこず、
ただ俺との距離を置いていく一方。
こんな俺に優しくする父さんにも
いつしか母さんは愛想を尽かしてしまっていた。
父さんのやけどが治ってまた店を再開した時には
母さんは他の男と遊ぶようになってしまっていて、
父さんが店で1人働いてる間に
3人で一緒に寝てたあの大きなベッドで、
別の男の人と大人の遊びをしていた。
でも、母さんを変えたのは俺だから何も言えなかった。
俺が中学生の時、母さんが家を出て行った。
母さんが出ていっても父さんは俺を責めなかった。
俺の世話もしつつ、俺の学費の為に店も続ける。
そして、
やけどを負ってる時も、治ってからも、
俺との時間を作って、父さんは料理を教えてくれた。
父さんと料理を作ってる時が、俺の1番好きな時間だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。