田中君は、次の日に、部活をやめた。
みんなやめた理由をしらない。でも、俺は知っている。先輩からいじめを受けていたってこと。
田中君が部活をやめ、標的は俺に変わったみたい。
でも、俺にはあまり手を出さない。
最近分かったことなんだけど、この前無くしたスパイクとタオルは、部室の近くのごみ箱に捨てられていた。
それは決まって二人きりの時にだけ言われる。
顔がこわばるのが、自分でもよく分かった。
グラウンドに出たら、向井くんが手を振ってくれる
向井くんを見てると、なんか落ち着くんだよなぁ。
いつも通り、筋トレが始まる。
筋トレが終わり、地面に座っていたら、
わざと俺に聞こえるところで、言ってくる。
相手にしてはいけないって分かってても、キズつくし、腹立つ。
とりあえず無視して、ボールを使った練習をする。
部室に長くいるのが怖くて、今日は早く支度をして、早めに部室を出る。
(Mukai)
最近、めめの様子がおかしいんよ。
あまり笑わないし、部活の後、いつも部室から出てくんのを、10分ぐらい待ってるんやけど、今日はやけに早い。
部室から出てきためめは、なんて言うんだろう…なんか、すごく不安そうな目をしてる。
この前は急に抱きしめられたし、どしたんやろ?
心配になって、気づけばめめの顔色ばかりを見てる俺。なんかあったんやろか…
あ!そや!こういう時は、さりげない安心感を与えてあげるのがいいって誰かが言ってた!
めめの手をとって歩く。
若干やけど、めめの頬が緩む。
絶対になんかあったな、これは。
これ以上ひどくなったら本人に聞いてみよ。
今日も、電車に乗っても落ち着かん顔してるし、大丈夫かなぁ…?
ほら。今も考え事してたみたいで、ぼーっとしてたし。やっぱり心配や。
家に帰ってからも、あのめめの不安そうな目が頭に浮かぶ。
寝る前に、「いつでも頼ってね。」という願いを込めて、LINEで
「明日も部活でよろしくね!」
と打つ。
その夜はなかなか寝付けなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!