そう言いながら、向井くんは背伸びして、俺のおでこに手を当ててくる。
距離がものすごく近い。
近いーっ!やばいー。
それにしても、なんでこの人はこんなに可愛いんだろう。
「次は○○駅〜○○駅〜」
そう言って、電車から降りた向井くん。
人混みに紛れて、すぐに見えなくなってしまった。
明日も会えるかな?
まだ火照っている顔を手で冷やしながら、外を見てると、雨が降ってきた。
え、俺、レインコート持ってきてない!
どうしよう…
「○○駅〜○○駅〜」
俺の降りる駅だ!
改札をでて、駐輪場まで行く。
帰らない訳にも行かないから、土砂降りだったけど、自転車で帰る事にした。
その時、野良猫らしき生き物が、猛スピードで、俺の前を通り過ぎた。
ガンッ
急ブレーキしたせいで、自転車が倒れ、固いコンクリートに打ち付けられる。
肩と膝を思いっきりぶつけた。
家に帰ってすぐ、シャワーを浴びた。
まだおでこに、向井くんの手の感覚が残ってる。
冷たくて、柔らかい。そんな不思議な感覚だった。
晩ごはんまで、自分の部屋ですごす。
明日から3日間、部活見学がある。ラウールと佐久間くんでも誘って見に行こっかなー。
向井くんはどの部活に入ってるんだろ?
気づけば、向井くんの事ばっかり考えてた。
勢いよく起き上がって思い出した。
そうだ、怪我したんだった。
シャワーしたときに見たら、膝は血が出てたし、肩は大きな痣になってた。
慎重に階段を降りて、リビングまで行く。
今日のごはんはラーメンだった。
向井くんはどんな食べ物が好きなんだろ?
まただ。気づけば向井くんの事ばかり考えている。
傷口が痛いから、そーっと階段をのぼって、自分の部屋に戻る。
ベッドにダイブして、天井を見てた。
明日から本格的な授業が始まるんだって。
どんな先生なんだろ?
1時間ぐらい、ぼーっとしたり、スマホを見たりしていたら、もう時刻は10時だった。
歯を磨いて、布団に入る。眠りに付くのはあっという間だった。
朝、目が覚めて、ご飯を食べて、駅に向かう。
ここまでは、いつも通りだった。
降りる駅まであと二駅って所で、声をかけられた
ビックリしたぁ。
あ、忘れてた(笑)
そんな事をされたら、また顔が赤くなる。
それはごめんだ。
なんで向井くんはそんな不満そうな顔をするんだろう(笑)
やっぱり、二人きりになると、変に緊張してしまう。
全然気づかなかった。
「○○駅〜○○駅〜」
二人きり、やばい。そう思っていたら、俺たちの少し前を歩いていたラウールと目があった。
ラウールが、嬉しそうに手を振ってくる。
そして、こっちに来た。
ラウールが来てくれなかったら、ずっと二人きりだったわ。そんなの俺の心臓が持たない(笑)
ラウールに感謝だね!笑笑
高校に着いた。
そう言って、向井くんは走っていってしまった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。