もちsaid
プー。プー。
電話が切れた。今夜は久しぶりに家の中で俺1人だ。帰りのコンビニで買ったピースに火をつける。
フレントは喧嘩した時と、たまに「チハヤの家に遊びに行きますね」と言う時以外、基本チハヤの家へ泊まりに行かない。しかも、今日は家に帰らず直で行ったから手ぶらなはずだ。何が原因で、そこまで急いでチハヤの家まで行ったんだ·····
いつもなんでも正直に話してくれて、今日みたいに食べたいものは我慢しないで言う。そういうフレントの性格が好きだった。フレントがどこに住もうか悩んでいる時も、ただ単に、フレントと日々日常を過ごせたら面白いだろうなという気持ちだけで同居を誘った。
あの時、目を見開くように喜んだのは意外だったが。
俺はフレントが不安になっていることに気づけなかったのか·····。確か、フレントが急にチハヤの家に行く時「気づいて」と言ったのは、そういう意味だったのか?
たくさんの人にもみくちゃにされて、いつの間にか俺がいなくなることを不安がってたのか?
1人で悶えた。フレントはそういう所があるから憎めない。けど不安にさせたのは事実だ。たくさんの人に支持されていることはとても嬉しいことだが、俺は身近な人を1番大切にしたい。いつも大切にしてるつもりだけど、それが相手に伝わらず上手くいかない恋が沢山あった。
だから俺は、フレントを1番今まで以上に大切にしたいにしたいんだ。さっき、フレントにされたようにチハヤの家に行くことを右腕を掴んで止められたら、もっと大切にできたんじゃないか·····
フレントは子供じゃない。けどなぜか自分の身の近くで大切にしたくなる。きっとこれは俺自身が認めたくない感情が混ざってる。その感情を俺は、今日も明日も気づかぬ振りをして逃げるんだ。けれど本当は誰かに逃げることを止めて欲しいのかもしれない。
けど、俺はこれでいいんだ。大切なものを今、しっかり近くに置いている。このままずっとフレントと一緒に同居出来てさえいれば。
けれど、急にチハヤの家に泊まるように、いつかどこかへフレントは消えてしまうんじゃないかという不安は、ずっと俺の胸の中に残っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。