第12話

第6羽 君の居ない聖なる日には ②
33
2018/12/29 07:21
「豆乳のティーラテです。お待たせしました〜」

あっつあつの大きな紙カップを満面の笑顔で手渡されて。

ぺこっと頭を下げて、私は自分の席に向かう。
紅茶で作った豆乳ラテ、実はちょっとした好物。

(これを飲むとほっとするんだよね……)


いつもの香りに心が安らぐ。

結局、外を出歩いてもカップルばっかりだし……コーヒーショップでぼんやりして時間を潰そう、ってそんな考えになっちゃった。

悠のバイト先も、ここから割りと近い駅前のお店だし、家に帰るよりはここに居たくて。

辺りを見渡せば、カップルや友達同士も居るけど……一人でパソコンをカチャカチャタイピングしてるお兄さんとか、サラリーマンとか、一人の女性だってちらほらいる。

(うん……何とか大丈夫、たぶん……)


“悠、今駅前のcafe boxにいるよ。終わるまで待ってるね”


とだけメッセージして、熱々のラテをちびちびと飲む。


(ほんとはちょっと、寂しいって言うか痩せ我慢してるけど)


でも、いいやーー……

窓ガラスの向こうの行き交うカップルを眺めながら。

携帯小説でも読んで、時間を潰そう。



。。。。。1時間、2時間ーーーー


「ふわぁ」




暇をもて余してるせいかな、ちょっと眠たくなってきちゃったやーー……














とん。とん。とん。

「ひゃぁぁぁ」

ほっぺに冷たい何かがリズムを打って、慌てて声を上げると……

「ははっ驚きすぎ」

懐かしい掠れた声。振り替えると、あれ?

「悠……?!」

「みゆ」

満面の笑顔で、悠が立ってた。片手に紙パックのフラッペドリンクを持って。

「あれ?悠、バイトは…?!」

「もうとっくに終わったよ。時計見てみなよ」

「え……?!」

慌てて携帯の画面を触ると、確かに……その時間は21時24分を示してて。

「わたし、寝ちゃったんだ……」

「そういうこと」

すとん、と悠が私の前の席に座る。

「い、いつから居たの…?!」

「ついさっき。っていうか、今来たところ」

悠は、フラッペを何の躊躇いもなく頬張りながら。
私の方を向いて微笑んだ。

「ってな訳で、メリークリスマス」

「えっ?!」

突然のクリスマス発言?!

「キリスト教徒じゃないけどね、一応クリスマスだから」

おどおどしてる私の様子も気にする様子もなく、鞄からごそごそと悠は何かを取り出した。

「これ。プレゼント」

白地にピンクの文字と、花柄と蝶が印刷された小洒落た小さな手提げの紙袋。

その中に、茶色の光沢のあるプラスチックバッグで包装された何かが入ってる。

「あ、開けていいの……?」

「うん、もちろん」

恐る恐るその包みを開ける。
丁寧に包装されたバッグの中には、可愛いうさぎのぬいぐるみと小さな箱が入っていた。

「これ……」

パカッと小箱を、何だかドキドキしながら開くと。中にはキラキラしたネックレスがーー……

「どう、気に入った?」

こっちをまん丸な無垢な瞳で見つめる悠。

「………」

何だか嬉しくて、言葉が出なくて。そっと、壊れ物をまるで扱うみたいに、優しく小箱から取り出す。

草の葉みたいな綺麗な飾りの真ん中に、小さく光るピンク色の石が輝いてた。

「あ、ありがとう……」

って言葉にするのが、精一杯で。
うさぎも好きだから、うさぎのぬいぐるみもちょっと嬉しくて。

「みゆ、付けたげよっか、それ」

悠はにこっと笑って。さりげなくこっちに責を立つと首に手を回した。

俯く前髪から覗く済んだ瞳に、否応なしにドキドキしてしまう。

「はい、出来た」

まるで、小さなお姫様みたいになった様な、そんな気分で。

熱に浮かされた気持ちで悠をぼんやり見つめる。

「よく、似合ってる」


口を結んで目を細めて、笑う悠の笑顔が眩しくて、どぎまぎして。


「悠……これ、きっと結構したよね…」

「まぁね。でも、バイト代で何とかそこは。だから気にしないで」

「ほんとに、ありがとう」

悠は黙って、私の頭をぽんぽん、として。
その掌の柔らかさに、また心が熱くなる。

「みゆは?」

二ヤッと悠が不敵な笑みを浮かべる。

「えっ」

そこで、悠の言わんとしている意味に気付いて、私も慌てて鞄の中のプレゼントを思い出す。

「あっ、あるよちゃんと……!」

(つづく)





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