第10話

第5羽夕陽と海と君と。〜お出掛けの帰り道
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2018/12/10 17:35
ふわふわしちゃう。

「みゆ」

出掛けた帰り道、うとうとしちゃって。

帰りの電車。進行方向に向かって四角く並んだシートにもたれかかって。

眠りの世界に誘われかけてたら、悠に肩をトントンって叩かれる。

「みて」

耳元で、小さく囁いて。

あともう少しで悠の吐息がかかっちゃうんじゃないかって位、それは近くて。

一気に心臓が跳ね上がりそうになる。

悠の指先と視線は、遥か向こうの車窓の先の風景へ向かっていて。
私も、すぐにその伝えたいことに気付く。

「きれい……」


海が、向こうに見える。

真っ直ぐな、水平線と。

そして、大きな夕陽が今、正に。

水平線の遥か向こう岸に沈もうとしていて。



それは、“きれい”なんて言葉じゃ言い表すことなんて本当はできなくて。

でも、それに見合う言葉を、大して勉強も出来ない私は知らなくて。

ただ、息を呑んでその風景に見惚れるーー


夕陽に照らされた、向こう側を一途に見つめる悠の横顔を眺めながら。


「あっ、……」

ぱしゃ。


そうだ。この風景を、カメラで残しとこう。

慌ててスマホを取り出して。

夕陽と。

夕陽に照らされた悠の横顔を撮る。



「……みゆ」

あ。振り向いた。



「じゃあ俺も」


悠も携帯を取り出してぱしゃぱしゃ。


うん。悪くない、こういうのも。


「ん?悠。こっちは海、写んないよ?」

こっちにカメラを向ける悠。


「夕陽に照らされるみゆの記念」

「えっ……」


にこり、と白い歯を見せて悠は笑う。

その笑顔も、夕陽もどっちも……眩しくて。



たじたじしてると、悠に肩を軽く捕まれた。

「夕陽をバックに撮ろ」

悠がスマホをこちらに向けて。


背景はきっと。まだ夕陽の海岸線のまま。


「記念写真」


そのまま、スマホのシャッターを押す。



ちょっとだけ遠出した、ローカル線の車内は人も少なくて。

電車が線路に揺られる音だけが、小気味良く響いてた。


(思い出に、なっちゃうな……)



海と夕陽と悠と。



カメラに向かって笑い顔を浮かべながら、そっとそんなことを考えてた。



もう片方の手は、ずっと繋いだまま。

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