悠の腕の中に抱き寄せられて。その身体に包まれる。
悠は私より背が高いから、自然と私の顔が悠の胸のところに収まってしまう。
私の鼓動の音、まるで荒波みたいに脈打ってて。
悠の鼓動はコート越しで聞こえないけど……温かさが電流みたいに伝わってくる。
公園の端の方の小さな街灯の灯りが、仄かに横目に映るけど。滑り台の横のここは、暗くて。まるで、世界に二人しか居ないみたいな錯覚に陥ってしまいそうで。
時間にして、どれくらいの時間が経ったのか分からない、長くて一瞬、みたいな不思議な感覚にぼんやりしながら、悠がそっと私の肩を掴んでそっと離れた。
「ごめん」
「う、ううん……」
(嫌、じゃないよ悠……)
ふいに、目を反らず悠に上手く言葉をかけることが出来ない。
「私も、悠のことがすき」
繕うことが出来なくて。咄嗟に口から出た言葉に、悠の透き通った瞳が私を射抜く。
「だから、えと。嬉しいよ……上手く言えないけどーーー」
最後まで言い終わる前に。
悠の唇が、私の唇に重なったーー……
白い雪が、はらはら落ちてくる。
じんわりと冷え込んでいく手先をそっと握られたまま。
唇だけが、まるで溶け出したチョコレートみたいに甘くて、熱くて。
悠ーー………
時間にして、どれくらい経ったのだろうか。
突然、ピピピピ……という音が小さく鳴って。
慌てて我に返ったみたいに私達はどちらからともなく離れた。
「………」
恥ずかしくて、照れ臭くて。何だか悠のことまともに見れないーー
そう思うも束の間、
「みゆ」
「?」
「やばい、時間だわ」
そう言われて時計を見ると。
23時10分前ーーー
「悠、この音」
「まぁ、なんていうか。もしものためにタイマーかけてたっていうか」
「ええっ……?!」
しれっと言い放つ悠。
「つまり、計算してたってこと…??」
「いや、そういう訳じゃないけど。保険っていうか何ていうか。やっぱり門限は守んないとマズいでしょ」
(し、しれっと誤魔化された気がする……!!)
家までここから10分は、かからない、筈。
「ダッシュで行こっか」
「(もう、悠ってば……!)」
にやっ白い歯を見せて笑う悠に、呆れつつも感謝しつつ。
私達は走り始めたーー……
まだ、積もりそうもない白い雪が、ちらほら舞い降りている、その中を。
*
「じゃあね」
「うん、またねみゆ」
悠を見上げる私のおでこに、彼は小さくキスをして。
「悠……!」
「大丈夫大丈夫」
怒る私も束の間、笑いながら悠は踵を返した。
手をフリフリ振って。
「早く入らないと、門限過ぎちゃうよ」
と、笑いながら。
遠ざかる悠の姿を見送りながら、そっと家の前まで辿り着く。
まだ、悠に抱き締められた時の温かさや、重ねた口元に微熱が残ってるみたい。
世の中の恋人たちが、どんなクリスマスを過ごしたのかなんてことは関係無くって。
会える時間こそ短かったけど、嬉しかったから。
(ありがとうね、悠)
悠に付けてもらったネックレスをそっと、コートの上からなぞって。
私はゆっくり、玄関の扉をくぐった。
何だか嬉しさとか、ドキドキとかでゆっくり眠れなくなりそう、なんて思いながらーー…
そんな聖なる夜。
翌日、雪はやっぱり積もらなくて少しだけがっかりしたけど。
冬休みは、まだまだこれから。
(おわり)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!