第15話

第6羽 君が居る聖なる日だから ⑤
30
2018/12/29 07:46
悠の腕の中に抱き寄せられて。その身体に包まれる。
悠は私より背が高いから、自然と私の顔が悠の胸のところに収まってしまう。

私の鼓動の音、まるで荒波みたいに脈打ってて。
悠の鼓動はコート越しで聞こえないけど……温かさが電流みたいに伝わってくる。

公園の端の方の小さな街灯の灯りが、仄かに横目に映るけど。滑り台の横のここは、暗くて。まるで、世界に二人しか居ないみたいな錯覚に陥ってしまいそうで。

時間にして、どれくらいの時間が経ったのか分からない、長くて一瞬、みたいな不思議な感覚にぼんやりしながら、悠がそっと私の肩を掴んでそっと離れた。

「ごめん」

「う、ううん……」

(嫌、じゃないよ悠……)

ふいに、目を反らず悠に上手く言葉をかけることが出来ない。

「私も、悠のことがすき」

繕うことが出来なくて。咄嗟に口から出た言葉に、悠の透き通った瞳が私を射抜く。

「だから、えと。嬉しいよ……上手く言えないけどーーー」


最後まで言い終わる前に。
悠の唇が、私の唇に重なったーー……










白い雪が、はらはら落ちてくる。

じんわりと冷え込んでいく手先をそっと握られたまま。

唇だけが、まるで溶け出したチョコレートみたいに甘くて、熱くて。




悠ーー………







時間にして、どれくらい経ったのだろうか。

突然、ピピピピ……という音が小さく鳴って。
慌てて我に返ったみたいに私達はどちらからともなく離れた。



「………」

恥ずかしくて、照れ臭くて。何だか悠のことまともに見れないーー

そう思うも束の間、

「みゆ」

「?」

「やばい、時間だわ」

そう言われて時計を見ると。

23時10分前ーーー



「悠、この音」

「まぁ、なんていうか。もしものためにタイマーかけてたっていうか」

「ええっ……?!」

しれっと言い放つ悠。

「つまり、計算してたってこと…??」

「いや、そういう訳じゃないけど。保険っていうか何ていうか。やっぱり門限は守んないとマズいでしょ」

(し、しれっと誤魔化された気がする……!!)

家までここから10分は、かからない、筈。

「ダッシュで行こっか」

「(もう、悠ってば……!)」

にやっ白い歯を見せて笑う悠に、呆れつつも感謝しつつ。

私達は走り始めたーー……



まだ、積もりそうもない白い雪が、ちらほら舞い降りている、その中を。









「じゃあね」

「うん、またねみゆ」

悠を見上げる私のおでこに、彼は小さくキスをして。

「悠……!」

「大丈夫大丈夫」

怒る私も束の間、笑いながら悠は踵を返した。

手をフリフリ振って。

「早く入らないと、門限過ぎちゃうよ」

と、笑いながら。



遠ざかる悠の姿を見送りながら、そっと家の前まで辿り着く。

まだ、悠に抱き締められた時の温かさや、重ねた口元に微熱が残ってるみたい。

世の中の恋人たちが、どんなクリスマスを過ごしたのかなんてことは関係無くって。

会える時間こそ短かったけど、嬉しかったから。

(ありがとうね、悠)

悠に付けてもらったネックレスをそっと、コートの上からなぞって。

私はゆっくり、玄関の扉をくぐった。


何だか嬉しさとか、ドキドキとかでゆっくり眠れなくなりそう、なんて思いながらーー…




そんな聖なる夜。





翌日、雪はやっぱり積もらなくて少しだけがっかりしたけど。

冬休みは、まだまだこれから。



(おわり)

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