第7話

ふたつの弁当箱
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2021/06/10 23:00
花火大会が終わっても、坪見からのメールはなし。二学期の始業式の日も話しかけられず、通常の授業が始まった。


その日の昼休み、あたしはいつものように弁当を持って2年1組の教室へ向かった。

すると、その教室から出てきた坪見と鉢合わせした。
丸本 リコ
坪見! 久しぶ……
久しぶりに会えて嬉しいと思ったのもつかの間。坪見が弁当箱をふたつ持っていることに気が付いてしまった。

考えるよりも先に、口が勝手に動いた。
丸本 リコ
よかったら、一緒に食べない?
あたしと坪見は、中央館の二階にある空き教室に向かった。

このへんの空き教室は人通りが少ないし、おしゃべりしながら食べるのにうってつけなんだ。

ガヤガヤしてるクラスの教室で食べるのもいいけど、こっちのほうがおしゃべりに集中できる。
丸本 リコ
その弁当、食べていい?
坪見が持っているふたつの弁当箱。
ひとつは、いつも爽介が食べていたものだ。
坪見 健志
リコも自分のがあるだろう。食べられるのか?
丸本 リコ
あたしの胃袋なめんなよー?
前から食べてみたかったんだよね、坪見の手作り弁当!

フタを開けると、色とりどりのおかずが輝いて見えた。
丸本 リコ
いただきます!
さっそく箸で玉子焼きを口に運んだ。

ふわふわで、ほんのり甘くて思わず、
丸本 リコ
うまいっ!
と叫んでしまった。

こんな美味しい弁当を毎日食べてたなんて、爽介のくせに……!

この心の声がもれてしまったのか、坪見が口を開いた。
坪見 健志
花火大会で、田中に振られた
唐突の報告に、あたしは一瞬硬直してしまった。

おいあたし! 相談相手なんだから、冷静でいなきゃ!
丸本 リコ
そうだったんだ
坪見 健志
でも、告白してよかった。これで本当に、田中と友達になれたと思う
まるで、自分に言い聞かせているようだった。


告白に悔いはないのかもしれないけど、本当の友達になれたんなら、いつも通り爽介と昼食を食べるはず。


でもそんなこと、坪見に言えるわけがなかった。

***


放課後の教室で、あたしは数学の小テストの補習問題を解いていた。

昼食後の授業は、坪見のことで頭がまわらなかった。そのせいで珍回答を連発し、教室を笑いの渦に包んでしまった。


坪見のクラスと合同じゃなくて、本当によかった。

まあ、小テストも解答欄がずれて見事0点をとっちゃったけど……。
丸本 リコ
終わったー!
スクールバッグを持って、職員室に小テストを提出しに向かった。

今回はスマホもちゃんと入れたことを確認したから、提出したらすぐに帰れる、と思っていた。
田中 爽介
あれ、リコじゃん
先生に提出して戸を開けると、まさかの爽介と鉢合わせ。

ま、マジか。
丸本 リコ
ひ、久しぶり
田中 爽介
久しぶり。特に話す機会もなかったもんな
田中 爽介
で、また補習?
うっ、さすが幼なじみ。鋭すぎる。
丸本 リコ
正解。爽介は?
田中 爽介
俺は、部室の鍵返しに
丸本 リコ
そっか……
待てよ。

これは、爽介に話を聞けるチャンスじゃない?
丸本 リコ
ねえ、せっかくだから一緒に帰ろうよ
田中 爽介
おう、いいぜ

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