花火大会が終わっても、坪見からのメールはなし。二学期の始業式の日も話しかけられず、通常の授業が始まった。
その日の昼休み、あたしはいつものように弁当を持って2年1組の教室へ向かった。
すると、その教室から出てきた坪見と鉢合わせした。
久しぶりに会えて嬉しいと思ったのもつかの間。坪見が弁当箱をふたつ持っていることに気が付いてしまった。
考えるよりも先に、口が勝手に動いた。
あたしと坪見は、中央館の二階にある空き教室に向かった。
このへんの空き教室は人通りが少ないし、おしゃべりしながら食べるのにうってつけなんだ。
ガヤガヤしてるクラスの教室で食べるのもいいけど、こっちのほうがおしゃべりに集中できる。
坪見が持っているふたつの弁当箱。
ひとつは、いつも爽介が食べていたものだ。
前から食べてみたかったんだよね、坪見の手作り弁当!
フタを開けると、色とりどりのおかずが輝いて見えた。
さっそく箸で玉子焼きを口に運んだ。
ふわふわで、ほんのり甘くて思わず、
と叫んでしまった。
こんな美味しい弁当を毎日食べてたなんて、爽介のくせに……!
この心の声がもれてしまったのか、坪見が口を開いた。
唐突の報告に、あたしは一瞬硬直してしまった。
おいあたし! 相談相手なんだから、冷静でいなきゃ!
まるで、自分に言い聞かせているようだった。
告白に悔いはないのかもしれないけど、本当の友達になれたんなら、いつも通り爽介と昼食を食べるはず。
でもそんなこと、坪見に言えるわけがなかった。
***
放課後の教室で、あたしは数学の小テストの補習問題を解いていた。
昼食後の授業は、坪見のことで頭がまわらなかった。そのせいで珍回答を連発し、教室を笑いの渦に包んでしまった。
坪見のクラスと合同じゃなくて、本当によかった。
まあ、小テストも解答欄がずれて見事0点をとっちゃったけど……。
スクールバッグを持って、職員室に小テストを提出しに向かった。
今回はスマホもちゃんと入れたことを確認したから、提出したらすぐに帰れる、と思っていた。
先生に提出して戸を開けると、まさかの爽介と鉢合わせ。
ま、マジか。
うっ、さすが幼なじみ。鋭すぎる。
待てよ。
これは、爽介に話を聞けるチャンスじゃない?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。