第3話

ひと肌脱ぐぜ!
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2021/05/13 23:00
あたしと坪見くんは、駅の近くにあるショッピングモールを訪れた。

あちこちに、赤やピンクのハート型の風船が浮いている。広場には、大規模なチョコレートコーナーができていた。


もうすぐバレンタインデーだからね。
そして、あたしが坪見くんをここに誘ったのも、この時季ならではのお目当てがあったから。
丸本 リコ
おお~!
運ばれてきたフォンダンショコラに、思わず頬がゆるむ。

あたしが坪見くんを誘ったのは、ショッピングモールのとあるカフェで、このフォンダンショコラを食べるため。

実はこれ、バレンタイン限定のメニューなんだ。

でも、ひとりでバレンタインのメニュー注文するのって、ちょっと恥ずかしいじゃん?

あ、友達がいないわけじゃないよ! みんなプライベートで忙しいから、誘えないだけ。




カレシいないの、あたしだけだから……。
坪見 健志
美味しそうだな
ブラックコーヒーのホットしか頼まなかった坪見くんでも、あつあつチョコがとろけるフォンダンショコラのことは少し気になるみたい。


まあ、あげることはできないから、ごめんね。

心の中だけでそう言って、あたしはパクリとスプーンを口に含んだ。美味しすぎて一瞬気が遠くなる。
丸本 リコ
それで、話ってなに?
坪見 健志
昨日の件を、田中に話さなかったことのお礼が言いたかったんだ
確かにあの後、爽介と帰ったけど、特に坪見くんについては話さなかった。

さすがの爽介も、自分の服のにおいかがれたこと知ったら、少しは引くと思うし。



あたしは改めて、坪見くんに聞いた。
丸本 リコ
爽介のこと、どう思ってるの?
この前みたいにビクッとはしなかったけど、坪見くんは困ったように目を伏せた。

でも、昨日とは違って坪見くんの口は開いた。
坪見 健志
俺は、田中に恋愛感情を抱いている
ほ、本当なんだ……。

あたしは心の中でちょっと驚いたけど、やっぱりそうか、という気持ちのほうが強かった。
丸本 リコ
そうなんだ
丸本 リコ
ちなみに、どういうとこが好き?
坪見 健志
そ、そうだな……
恥ずかしそうだったけど、話してくれた。
坪見 健志
俺の作った弁当を、美味しそうに食べる姿かな
爽介がコンビニを卒業したきっかけは、やっぱり坪見くんだったんだ。

一回坪見くんが作った弁当の中身を見たことがあるけど、どのおかずもすごく美味しそうだった。

そこに愛情も込められているなら、絶対に美味しいに違いない。
料理の最高の調味料は愛情だって聞いたことあるし。
坪見 健志
最初は、俺も田中を友達だと思っていた
坪見 健志
でも、田中と話すうちに、少しでも長く一緒にいたいと思うようになって……
あ、あまずっぺええええええええっ!

外見は男らしいのに、中身は超乙女じゃん!



ちょっと待てよ、乙女なら……。
丸本 リコ
バレンタインはどうするの?
坪見 健志
……渡す勇気がなくてな
坪見くんは、さびしそうに微笑んだ。


こんなピュアな恋、誰でも応援したくなるでしょ!
丸本 リコ
じゃあ、あたしが代わりに渡すわ!

***


バレンタイン当日。

あたしは坪見くんが作ったお菓子を、
丸本 リコ
爽介のことが気になってる子から預かった
と言って渡すことに成功した。
本人は恥ずかしがり屋で名乗る勇気がなくて、とかなんとか理由を添えて。


放課後、校門前で待ち合わせしていた坪見くんに報告すると、いきなりあたしの手を握ってきた。
坪見 健志
本当にありがとう!
いつもお堅い顔してるから、笑顔が眩しすぎる!
でも、坪見くんのターンはまだ終わらない。
坪見 健志
これ、よかったら食べてくれ。今日のお礼だ
坪見くんが鞄の中から取り出したのは、爽介に渡したものと同じ、ピンクの箱だった。この中には、マカロンが入っているはず。
丸本 リコ
めっちゃ嬉しい! ちょっと食べたいなーって思ってたんだ~
家に帰った後、さっそくあたしは箱を開けた。
綺麗に並んだ、色とりどりのマカロンは、まるで宝石のようだった。


マカロンって、作るのすごく難しいって友達が言ってたっけ。
坪見くんは爽介のために、こんなに綺麗なお菓子を作ったんだ……。


正直、あの爽介にはもったいなさすぎる。


あたしはまず、鮮やかなルビー色のマカロンを食べた。

サクッとした食感で、めちゃくちゃ美味しくて、箱の中はあっという間に空っぽになった。

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