第6話

おなかが空かない……
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2021/06/03 23:00
花火大会当日。
あたしは例年通り、幼なじみたちと隣町の花火大会に来た。

みんな元気そうだったし、花火大会も去年より人が来ていて、とてもにぎやかな雰囲気だった。

このお祭りムードが、毎年あたしの胃袋を刺激する……はずなのに。



丸本 リコ
おなかが、空かない!?
目の前にチーズボールの屋台があっても、唐揚げのにおいを感知しても、見知らぬ人がクレープを食べている姿を見ても、なぜか食欲がわかない。


いつもなら、両手に食べ物を持っていないと落ち着かない、このあたしが……。


みんなは、まだまだ食べ物を買うみたいだし、このまま歩いても疲れるだけ。

あたしは、場所取りをして待機することにした。
丸本 リコ
はあ……
カラフルなレジャーシートの上に座ったあたしは、大きなためいきをついた。


なぜおなかが空かないのか。


多分、坪見だ。
坪見が爽介と花火大会を楽しんでいるのか、そして上手く告白できるのか、気になって仕方ないんだ。

まさか、あたしの食欲にまで影響を及ぼすとは……。
広崎 知璃
リコ
顔をあげると、幼なじみのひとりである、知璃ともりがいた。

小顔で、目はパッチリで、おしとやかで、おまけに胸も大きい。

中学校までは、休み時間いつもおしゃべりしてた。高校が違う今でも、たまにメールで話す仲だ。
広崎 知璃
ポテト買ってきたの。食べる?
丸本 リコ
ありがとう
丸本 リコ
でもごめん。なんかおなか空かなくて
広崎 知璃
もしかして、爽介がいないから?
丸本 リコ
いやそれはな……いかな
確かに爽介はガッツリ関わってるけど、根本的な原因ではない。

知璃に坪見のこと話してないし、上手く説明もできない。


知璃、友達なのに隠しごとしちゃって、ごめん。
広崎 知璃
みんな心配してたよ。あのリコが全然食べないって
広崎 知璃
なにか、あったの?
知璃が隣に座ってきた。

すると、ふとあることが聞きたくなった。
丸本 リコ
ねえ、知璃
丸本 リコ
『好き』って、何だろう
知璃は目を丸くしたけど、すぐに穏やかな表情に戻った。
広崎 知璃
特定の人の前でしか表れない、不思議な気持ちや身体の変化かな
丸本 リコ
た、例えば?
広崎 知璃
発熱してるわけじゃないのに、体温が上がっていると感じたり……
広崎 知璃
あと、そのひとにキスしたいと思ったり、とか?
丸本 リコ
キス!?
キスって、あれだよね。
なんともいえない雰囲気の中で行う、超ロマンチックだけど恥ずかしい、あの行為だよね。


さすがに、坪見をそんな目で見たことはないけど、体温の急上昇を感じたことはある。


仲がいい友達だから?

もしそうだったら、坪見より付き合いが長い爽介の前でも、あの気持ちが起こるはず。

でも、爽介の前では感じたとこがない。


あたしは、もうひとつ聞いた。
丸本 リコ
恋愛と友情は、何が違うの?
広崎 知璃
うーん、難しい話題だね
知璃は苦笑いだったけど、真剣に考えてくれた。
広崎 知璃
私は恋愛の実体験がないから、断言はできないけど
広崎 知璃
恋愛と友情は、紙一重だと思う
丸本 リコ
何で?
広崎 知璃
恋愛と友情は、どちらにも変われるの
広崎 知璃
例えば、最初は友達だと思っていたけど、一緒に過ごすうちに、だんだん好きになっていった、とか
その瞬間、あたしの心臓は大きく跳び跳ねた。
丸本 リコ
な、なるほどね……
丸本 リコ
ありがとう、知璃
しばらくして、みんなが戻ってきて、一緒に花火を見た、と思う。

でもあたしは、そのときの記憶が全くない。

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