いつもの帰り道を歩きながら、あたしはあの話題を振った。
すると爽介は、苦笑いしながら頭をかいた。
今日の昼食のとき、なぜ坪見が弁当をふたつ持っていたのか。
告白したことに対して、坪見は本当に悔いはないのか。
これで確信した。
爽介は、坪見の想いを踏みにじったんだ。
ふつふつと怒りがわき上がってきた。
落ち着け。爽介は、あたしが全て知っていることを知らない。
でも……!
***
まだ爽介のお母さんは帰ってきていなかった。聞かれたくない話だからちょうどいい。
あたしと爽介は一緒に、爽介の自室に入った。
とりあえずスクールバッグをすみに置いて……。
爽介のほうを振り返り、その左頬を思いっきり平手打ちした。
突然のことに、爽介は何も言えず、目を大きく見開いてあたしを見ていた。
爽介の表情が豹変した。
こんな鋭い目つきをするんだと思う前に、両肩を強く掴まれ、その勢いのままベッドに押し倒された。
両方の手首を掴まれて、身動きがとれない。それでも、あたしは目をそらさなかった。
爽介の眉間のシワが少し浅くなった。
だって爽介は、坪見の弁当をほぼ毎日食べてきた。坪見の愛情を感じていないわけがない。
でも、あたしの手首を押さえつけている力はいっそう強くなった。
ここまで来たら、ひるんじゃだめだ。
だって、爽介は優しいから。
小学校の頃から、友達思いで、あたしは何度も助けられた。
だから……。
そう叫んだ瞬間、一気に爽介の顔が近づいて、くちびるから柔らかい感触を感じた。
キスだ。
あたしのマヌケ面が、爽介のひとみに映る。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。