第8話

バトル勃発
554
2021/06/17 23:00
いつもの帰り道を歩きながら、あたしはあの話題を振った。
丸本 リコ
そういえば、花火大会、どうだった?
すると爽介は、苦笑いしながら頭をかいた。
田中 爽介
実はさー、告白されてよ
田中 爽介
まさか男友達に告白されるとか、思ってもなかったわ
丸本 リコ
そうなんだ……
田中 爽介
正直、ゾッとした
田中 爽介
いつも友達のふりして、俺のことそういう目で見てたってことだろ?
今日の昼食のとき、なぜ坪見が弁当をふたつ持っていたのか。

告白したことに対して、坪見は本当に悔いはないのか。

これで確信した。
爽介は、坪見の想いを踏みにじったんだ。

ふつふつと怒りがわき上がってきた。


落ち着け。爽介は、あたしが全て知っていることを知らない。


でも……!
丸本 リコ
あのさ、今日の数学でわからなかったとこあるんだけど……
田中 爽介
しょうがねえなー

***


まだ爽介のお母さんは帰ってきていなかった。聞かれたくない話だからちょうどいい。
田中 爽介
飲みもん持っていくから、先入っといて
丸本 リコ
いや、教えてもらいとこちょっとだからいいよ
あたしと爽介は一緒に、爽介の自室に入った。

とりあえずスクールバッグをすみに置いて……。
丸本 リコ
なあ、爽介
田中 爽介
どうした?
爽介のほうを振り返り、その左頬を思いっきり平手打ちした。

突然のことに、爽介は何も言えず、目を大きく見開いてあたしを見ていた。
丸本 リコ
あんた、最低だよ
丸本 リコ
告白を断わるのと、想いを踏みにじるのは違う!
田中 爽介
お前、まさか……っ!
爽介の表情が豹変した。
こんな鋭い目つきをするんだと思う前に、両肩を強く掴まれ、その勢いのままベッドに押し倒された。
田中 爽介
知ってたのかよ
田中 爽介
なんで止めなかったんだ!
両方の手首を掴まれて、身動きがとれない。それでも、あたしは目をそらさなかった。
丸本 リコ
好きな人に告白したくなったら、告白したっていいじゃん!
丸本 リコ
あたしは今まで、坪見から爽介の話を聞いてきた
丸本 リコ
爽介が、自分が作った弁当を美味しそうに食べてくれる姿が好きだって言ってた
丸本 リコ
あたしね、今日の昼食、爽介の代わりに弁当食べたよ。普通、あんなに美味しく作れない
丸本 リコ
坪見が爽介を想って作ったから、めちゃくちゃ美味しいんだ!
爽介の眉間のシワが少し浅くなった。
だって爽介は、坪見の弁当をほぼ毎日食べてきた。坪見の愛情を感じていないわけがない。

でも、あたしの手首を押さえつけている力はいっそう強くなった。
田中 爽介
それじゃあお前は、俺が坪見の告白を受けると思っていたのか
丸本 リコ
それは……
ここまで来たら、ひるんじゃだめだ。
丸本 リコ
爽介なら、たとえ坪見を振ったとしても、坪見の想いは、受け止めてくれると思っていたから
だって、爽介は優しいから。
小学校の頃から、友達思いで、あたしは何度も助けられた。

だから……。
田中 爽介
それじゃあ、リコはどうなんだ
田中 爽介
好きでもないやつに告白されて、受け止められるのか
丸本 リコ
もちろんだ!
そう叫んだ瞬間、一気に爽介の顔が近づいて、くちびるから柔らかい感触を感じた。


キスだ。


あたしのマヌケ面が、爽介のひとみに映る。
田中 爽介
俺は、リコのことがずっと好きなんだよ

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