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第10話

これからは
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2021/07/01 23:00
あたしは初めて、仮病を使って学校を休んだ。
学校を休んだのは、小学生のときにかかったインフルエンザ以来かも。


そういえば去年、カレシと別れたことが原因で、休みがちになった子がいたっけ。

あのときのあたしは、その気持ちが理解できなかった。でも、今なら少しわかる気がする。
丸本 リコ
はあ……
リビングのテレビでバラエティー番組を見ても、自分の部屋のベッドでゴロゴロしても、昨日の爽介が頭を離れない。




だって、図星だったから。


昨日まで、何も思い当たることがなかったわけじゃない。


それでも、あたしは坪見への想いに気づかないようにしていた。


もし坪見のことが好きだと認めたら、友達という関係が崩れてしまうから。


坪見は、その覚悟をして告白に踏み切ったんだ。改めて、坪見はすごいと思った。











だらだらと過ごしているうちに、窓の外から激しい雨音が聞こえ始めた。
丸本 リコ
ええー!
カーテンを開けると、無数の雨粒が窓に打ち付けられていた。

コンビニで夕食のおかずを買う予定を立てていたあたしは、がっくりと肩を落とした。


この夕立の中に飛び込まなきゃ、夕食なしだなんて……とりあえず、着替えるか。


重い足どりで自分の部屋に向かおうとしたとき、インターホンが鳴った。誰だろう。

あたしは玄関に向かい、ドアを開けた。
強風と雨粒が飛び込んできて、一瞬目を細めたけど、すぐ目を見開いた。
坪見 健志
こんにちは
なんと、坪見が立っていた。
丸本 リコ
ええっ!?
何で!? メールアドレスは交換したけど、住所は教えてないのに。

それになんで来たの!?

疑問がぽんぽん浮かんだけど、雨が染みた坪見のブレザーに目が行った。

この強風だと、傘を差してる意味はなさそう。とにかく、風邪を引かれるのは嫌だ。
丸本 リコ
風邪引くから、家あがって
坪見 健志
ああ、すまない
だっさい部屋着姿も、ボサボサな髪の毛も、気にしてる余裕なんてない。


幼なじみ以外の男子を家にあげるのは、初めてだ。


変に緊張しながらも、あたしは坪見をリビングに案内した。
丸本 リコ
はい、麦茶
ソファに座った坪見に、麦茶を注いだグラスを渡した。坪見は一口飲んで、目の前の小さな木製テーブルに置いた。
坪見 健志
田中が、住所を教えてくれたんだ
確かに爽介しか、坪見にあたしの家の住所を教えられない。

でも昨日、爽介は坪見の弁当を断わっていたし、話す機会なんてあったんだろうか。

頭をフル回転させていると、坪見があたしのほうを向いた。

外の雨とは正反対の、晴れやかな表情で。
坪見 健志
ありがとう
坪見 健志
リコのおかげで、田中と本当の友達になることができた
坪見 健志
俺のために、怒ってくれたんだな
そうだ。
爽介に平手打ちを食らわせたのは、こうなってほしかったから。

でも罪悪感が大きくなって、思わずあたしはうつむいた。
丸本 リコ
そ、それはよかった
爽介は、坪見の告白を拒絶し、坪見をひどく傷つけた。謝ったとしても、今度は自分が坪見に拒絶されるかもしれないのだ。


それでも爽介は覚悟を決めて動いた。


それに比べてあたしは、今の関係を壊してしまうことがこわくて、自分にも坪見にも嘘をついたまま。


このままでいいのか。
平手打ちを食らうべきなのは、あたしのほうじゃん!
丸本 リコ
あのさ
顔をあげて、坪見と視線を合わせる。

もう逃げない。
丸本 リコ
あたしも謝りたいことがあるの
丸本 リコ
あたし、坪見のことが好き
丸本 リコ
それなのに、今まで自分の気持ちに気づかないふりして、ずっと、坪見に嘘ついてた
丸本 リコ
だからその罰として、あたしをひどく振ってほしい
大嘘つきなあたしには、これからも坪見と友達でいられる資格はない。


今までありがとう、そしてごめんなさい。


たくさんの想いがこみ上げてきて、涙が溢れだした。視界がぼやけて、坪見の顔が見えなくなった。

それでも、覚悟を決めたあたしは、坪見をまっすぐ見つめ続けた。
坪見 健志
俺は
坪見 健志
これを機に、改めてリコと友達の関係を築きたい
丸本 リコ
へっ……?
予想外の返答に、あたしの口からはマヌケな声がもれた。
丸本 リコ
こんなあたしでも、友達として、いてもいいの……?
坪見 健志
もちろんだ
我慢していた糸がプツッと切れて、あたしはちっちゃい頃のように泣きじゃくった。


やっぱり、あたしはダメだなあ。


すると坪見の手が、あたしをソファまで連れてってくれた。

相変わらず視界はぼやけたままだったけど、隣に座ったあたしを、坪見は優しく引き寄せてくれた。



これからは、ありのままの自分で、坪見と向き合っていける。


坪見の肩の上で、あたしは目を閉じた。







【おわり】

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