あたしは初めて、仮病を使って学校を休んだ。
学校を休んだのは、小学生のときにかかったインフルエンザ以来かも。
そういえば去年、カレシと別れたことが原因で、休みがちになった子がいたっけ。
あのときのあたしは、その気持ちが理解できなかった。でも、今なら少しわかる気がする。
リビングのテレビでバラエティー番組を見ても、自分の部屋のベッドでゴロゴロしても、昨日の爽介が頭を離れない。
だって、図星だったから。
昨日まで、何も思い当たることがなかったわけじゃない。
それでも、あたしは坪見への想いに気づかないようにしていた。
もし坪見のことが好きだと認めたら、友達という関係が崩れてしまうから。
坪見は、その覚悟をして告白に踏み切ったんだ。改めて、坪見はすごいと思った。
だらだらと過ごしているうちに、窓の外から激しい雨音が聞こえ始めた。
カーテンを開けると、無数の雨粒が窓に打ち付けられていた。
コンビニで夕食のおかずを買う予定を立てていたあたしは、がっくりと肩を落とした。
この夕立の中に飛び込まなきゃ、夕食なしだなんて……とりあえず、着替えるか。
重い足どりで自分の部屋に向かおうとしたとき、インターホンが鳴った。誰だろう。
あたしは玄関に向かい、ドアを開けた。
強風と雨粒が飛び込んできて、一瞬目を細めたけど、すぐ目を見開いた。
なんと、坪見が立っていた。
何で!? メールアドレスは交換したけど、住所は教えてないのに。
それになんで来たの!?
疑問がぽんぽん浮かんだけど、雨が染みた坪見のブレザーに目が行った。
この強風だと、傘を差してる意味はなさそう。とにかく、風邪を引かれるのは嫌だ。
だっさい部屋着姿も、ボサボサな髪の毛も、気にしてる余裕なんてない。
幼なじみ以外の男子を家にあげるのは、初めてだ。
変に緊張しながらも、あたしは坪見をリビングに案内した。
ソファに座った坪見に、麦茶を注いだグラスを渡した。坪見は一口飲んで、目の前の小さな木製テーブルに置いた。
確かに爽介しか、坪見にあたしの家の住所を教えられない。
でも昨日、爽介は坪見の弁当を断わっていたし、話す機会なんてあったんだろうか。
頭をフル回転させていると、坪見があたしのほうを向いた。
外の雨とは正反対の、晴れやかな表情で。
そうだ。
爽介に平手打ちを食らわせたのは、こうなってほしかったから。
でも罪悪感が大きくなって、思わずあたしはうつむいた。
爽介は、坪見の告白を拒絶し、坪見をひどく傷つけた。謝ったとしても、今度は自分が坪見に拒絶されるかもしれないのだ。
それでも爽介は覚悟を決めて動いた。
それに比べてあたしは、今の関係を壊してしまうことがこわくて、自分にも坪見にも嘘をついたまま。
このままでいいのか。
平手打ちを食らうべきなのは、あたしのほうじゃん!
顔をあげて、坪見と視線を合わせる。
もう逃げない。
大嘘つきなあたしには、これからも坪見と友達でいられる資格はない。
今までありがとう、そしてごめんなさい。
たくさんの想いがこみ上げてきて、涙が溢れだした。視界がぼやけて、坪見の顔が見えなくなった。
それでも、覚悟を決めたあたしは、坪見をまっすぐ見つめ続けた。
予想外の返答に、あたしの口からはマヌケな声がもれた。
我慢していた糸がプツッと切れて、あたしはちっちゃい頃のように泣きじゃくった。
やっぱり、あたしはダメだなあ。
すると坪見の手が、あたしをソファまで連れてってくれた。
相変わらず視界はぼやけたままだったけど、隣に座ったあたしを、坪見は優しく引き寄せてくれた。
これからは、ありのままの自分で、坪見と向き合っていける。
坪見の肩の上で、あたしは目を閉じた。
【おわり】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。