多分これは、防衛本能だ。
あたしの手は、すごいパワーで爽介の拘束を解くと、爽介の右頬に思いっきり平手打ちした。
さらにあたしは、爽介のおでこに頭突きを食らわした。
その衝撃で、爽介は悶えながら床に倒れた。
ついでに頭突きをしたあたしも大ダメージを負った。頭の中で大きなベルがぐわんぐわん鳴って、意識がもうろうとする。
でも、今ひるんだら絶対にいけない!
何とかベッドから立ち上がり、重たい頭を上げた。
頭をおさえながら、なんとか爽介も起き上がった。
意識がもうろうとしてたから、とにかく告白の返事を言って断わることしか考えてなかった。
爽介が鋭いのは、目つきだけじゃない。
一気に鼓動が速くなって、部屋は暑くないのに、汗が頬を伝った。
まるで、首をしめられてるかのように、息が苦しくなってくる。
いつもなら勝手に動くはずなのに、口は半開きのまま。
爽介の視線にたえられなくて、視線を床にそらしたけど、あまり意味はなかった。
そして、とどめの一撃があたしの胸を貫いた。
***
振られる覚悟はできていたはずなのに、実際好きな人に振られると、やはり心に傷を負ってしまったようだ。
俺、坪見 健志は、花火大会の帰りの電車で実感した。
行きの電車では、隣に彼がいた。
今は、見知らぬサラリーマンがいる。
花火が全て夜空に散った後、少々遅れて俺も散った。
来年もクラスメイトになるかはわからない。だが、これからまだ約半年顔を合わせなければならない。
もう二度と、友達には戻れない。
これも覚悟していたはずだ。
覚悟していたはずなのに、二学期をむかえるのがこわい。
だが、俺は休むわけにはいかない。
ここで逃げたら、今日の告白が、後悔に成り果ててしまう。
二学期、田中に弁当を断わられた。
そうなることはわかっていたはずなのに、昨日はいつものクセで作ってしまった。
早くこのクセをなおさなければ、田中にも、そしてリコにも迷惑をかける。
だから、今日は作らなかったのだが……。
古典の教科書から顔を上げると、田中がいた。
なぜか、両頬に湿布を貼っていた。
それが気になって、俺の口から一番に飛び出したのは、あいさつの返事ではなかった。
たはは、とはにかむ田中。
もう、俺は見ることができないと思っていた笑顔。
それだけではない。
一瞬、俺は夢を見ているのかと思ってしまった。
だが、田中から湿布のにおいがして、五感は正常に働いているのがわかる。
これは、現実だ。
俺は、久々に笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!