第9話

恋愛感情
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2021/06/24 23:00
多分これは、防衛本能だ。
あたしの手は、すごいパワーで爽介の拘束を解くと、爽介の右頬に思いっきり平手打ちした。

さらにあたしは、爽介のおでこに頭突きを食らわした。
田中 爽介
ぐわああああっ!
その衝撃で、爽介は悶えながら床に倒れた。
ついでに頭突きをしたあたしも大ダメージを負った。頭の中で大きなベルがぐわんぐわん鳴って、意識がもうろうとする。

でも、今ひるんだら絶対にいけない!

何とかベッドから立ち上がり、重たい頭を上げた。
丸本 リコ
ごめん
丸本 リコ
爽介は、あたしにとって、幼なじみで、友達以上の存在、だけど……
丸本 リコ
それは、恋愛感情とは違うから
田中 爽介
リコ……
頭をおさえながら、なんとか爽介も起き上がった。
田中 爽介
なんで、わかるんだよ
丸本 リコ
え……
田中 爽介
中学生のとき、お前言ってたよな
田中 爽介
恋愛と友情の違いがわからないって
田中 爽介
なのになんで、俺には恋愛感情を持ってないことがわかるんだ?
意識がもうろうとしてたから、とにかく告白の返事を言って断わることしか考えてなかった。


爽介が鋭いのは、目つきだけじゃない。
田中 爽介
坪見のこと、好きなんだろ
田中 爽介
坪見に、恋愛感情持ってんだろ
一気に鼓動が速くなって、部屋は暑くないのに、汗が頬を伝った。
丸本 リコ
坪見は友達で……
田中 爽介
そうやって逃げるのか
まるで、首をしめられてるかのように、息が苦しくなってくる。
田中 爽介
お前のほうじゃないか
田中 爽介
坪見に向き合ってないのは
いつもなら勝手に動くはずなのに、口は半開きのまま。

爽介の視線にたえられなくて、視線を床にそらしたけど、あまり意味はなかった。

そして、とどめの一撃があたしの胸を貫いた。
田中 爽介
自分を偽った友情なんて、本当の友情じゃない

***


振られる覚悟はできていたはずなのに、実際好きな人に振られると、やはり心に傷を負ってしまったようだ。

俺、坪見 健志つぼみ たけしは、花火大会の帰りの電車で実感した。

行きの電車では、隣に田中がいた。

今は、見知らぬサラリーマンがいる。

花火が全て夜空に散った後、少々遅れて俺も散った。

来年もクラスメイトになるかはわからない。だが、これからまだ約半年顔を合わせなければならない。



もう二度と、友達には戻れない。



これも覚悟していたはずだ。
覚悟していたはずなのに、二学期をむかえるのがこわい。

だが、俺は休むわけにはいかない。
ここで逃げたら、今日の告白が、後悔に成り果ててしまう。









二学期、田中に弁当を断わられた。

そうなることはわかっていたはずなのに、昨日はいつものクセで作ってしまった。

早くこのクセをなおさなければ、田中にも、そしてリコにも迷惑をかける。

だから、今日は作らなかったのだが……。
田中 爽介
おはよ
古典の教科書から顔を上げると、田中がいた。

なぜか、両頬に湿布を貼っていた。
それが気になって、俺の口から一番に飛び出したのは、あいさつの返事ではなかった。
坪見 健志
どうしたんだ、その頬は
田中 爽介
ちょっと色々あって
たはは、とはにかむ田中。
もう、俺は見ることができないと思っていた笑顔。

それだけではない。
田中 爽介
今日の放課後、部活終わったらすぐ教室に行くから
田中 爽介
だから、待っててほしい
田中 爽介
坪見に、話があるんだ
一瞬、俺は夢を見ているのかと思ってしまった。
だが、田中から湿布のにおいがして、五感は正常に働いているのがわかる。

これは、現実だ。
坪見 健志
ああ、待っている
俺は、久々に笑った。

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