ホワイトデーに、あたしは坪見くんを商店街にある小さなカフェに誘った。
ミントグリーンのラッピングペーパーに包まれた箱をテーブルの上に置くと、坪見くんは目を丸くした。
せまい店内にも関わらず、坪見くんは驚きの声を上げた。すぐに手で口を押さえたけど、目はめちゃくちゃ泳いでる。
そりゃそうだよね。
あたしだって、爽介に渡されたときは驚いたもん。
意外と律儀なんだ……って思っちゃった。
幼なじみだけど、知らないことって多いのかもしれない。
坪見くんは、丁寧にラッピングペーパーをはがしていった。はがし終わると、花柄の箱があらわれた。
何が入っているんだ……?
坪見くんがふたを開けた。
可愛いデザインのハンドクリームが三つ入っていた。さらにその上には、小さなメッセージカードが乗っていた。
あの爽介が、バレンタインのお礼のメッセージを書いた!?
そんなロマンチックなことするヤツだっけ!?
坪見くんの声で我に返ると、あたしは席から立ち上がっていることに気がついた。
周りのお客さんと店員さんの視線が、身体中に突き刺さる。あたしは、慌てて席に座った。
坪見くんはメッセージカードに目を通した。
すると、坪見くんの頬がじんわりと赤く染まっていった。
め、めちゃくちゃ気になるうううううっ!
でも、あのメッセージは坪見くん、というかマカロンをプレゼントした子に向けて爽介が書いたもの。
あたしが読む必要なんてない。ここは我慢だ……。
くしゃっとした坪見くんの笑顔を見ると、あたしの心も温かくなった。
坪見くんの笑顔は、幸せをわけてくれるのか……。
あたしと坪見くんの目の前に、白イチゴと生クリームを盛り盛りに盛ったパフェが置かれた。
あたしの第二の目的。それは、このホワイトデー限定パフェを食べること。
実はこのメニュー、カップルで来店しないと食べられない。
毎年恒例の人気メニューなんだけど、これまであたしは自分が非リアであることを嘆き、諦めていた。
でも、今年は坪見くんがいる!
付き合ってないけど、さすがに店員さんもそこまでは確認しない。
ふと、あたしはいいことを思いついた。
そうすればこれからも、ひとりじゃ注文しにくいメニューを食べられる。
坪見くんはちょっと考えてたけど、承諾してくれた。
***
二年生になった坪見は見事、また爽介とクラスメイトになれた。
ちなみにあたしも、またふたりと隣のクラス。
でも、昼食を一緒に食べる友達もふたりと同じクラスになった。
ふたりの会話に耳をすませながら、あたしは弁当を食べている。
完全にストーカーだけど、坪見が心配だから、仕方ない! 相手があのデリカシーなし男だし、悪気がなくても、坪見が傷つくことだってあるかもしれないし。
ある放課後、あたしは坪見をカラオケに誘った。
指定された個室に入り、あたしは専用の機械で料理を注文しながら、坪見に聞いた。
あたしは機械の画面を見たままだったけど、多分、坪見は驚いたと思う。
あたしは画面から坪見へ視線を移した。
坪見は笑っていた。
でもその笑顔は、あたしの心を悲しくさせた。
他にどう励ませばいいのかわからなかったから、勢いで言ってしまった。
他にもっといい励ましかたがあるはずなのに……引かれたな。
ところが、向かいの席にいた坪見は立ち上がり、あたしの隣に座った。
ま、マジで!?
あたしが体勢を整えると、坪見の頭があたしの肩に乗った。
やばい。
どうしよう。
部屋暑くないのに、身体が熱い。
聞こえないのに、鼓動がうるさい。
坪見には、聞かれてないよね!?
その言葉で、鼓動がどんどん加速して。
でもなぜか、少しズキッとした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。