第4話

友達として
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2021/05/20 23:00
ホワイトデーに、あたしは坪見くんを商店街にある小さなカフェに誘った。
丸本 リコ
はい、これ
ミントグリーンのラッピングペーパーに包まれた箱をテーブルの上に置くと、坪見くんは目を丸くした。
坪見 健志
これは……
丸本 リコ
爽介から預かった、バレンタインのお返し
坪見 健志
なっ!?
せまい店内にも関わらず、坪見くんは驚きの声を上げた。すぐに手で口を押さえたけど、目はめちゃくちゃ泳いでる。


そりゃそうだよね。
あたしだって、爽介に渡されたときは驚いたもん。

意外と律儀なんだ……って思っちゃった。
幼なじみだけど、知らないことって多いのかもしれない。
坪見 健志
あ、開けてみてもいいか
丸本 リコ
どうぞどうぞ
坪見くんは、丁寧にラッピングペーパーをはがしていった。はがし終わると、花柄の箱があらわれた。

何が入っているんだ……?
坪見 健志
開けるぞ……
坪見くんがふたを開けた。
可愛いデザインのハンドクリームが三つ入っていた。さらにその上には、小さなメッセージカードが乗っていた。
丸本 リコ
め、メッセージカード!?
あの爽介が、バレンタインのお礼のメッセージを書いた!?

そんなロマンチックなことするヤツだっけ!?
坪見 健志
おい……
坪見くんの声で我に返ると、あたしは席から立ち上がっていることに気がついた。

周りのお客さんと店員さんの視線が、身体中に突き刺さる。あたしは、慌てて席に座った。
丸本 リコ
ごめん。ちょっと驚いちゃって
坪見 健志
知らなかったのか
丸本 リコ
うん
丸本 リコ
爽介には、渡してほしいってことしか言われなかったし
坪見 健志
そうか……
坪見くんはメッセージカードに目を通した。
すると、坪見くんの頬がじんわりと赤く染まっていった。


め、めちゃくちゃ気になるうううううっ!


でも、あのメッセージは坪見くん、というかマカロンをプレゼントした子に向けて爽介が書いたもの。
あたしが読む必要なんてない。ここは我慢だ……。
丸本 リコ
よかったね
坪見 健志
ああ
坪見 健志
お礼なんて、もらえるとは思ってもいなかった
くしゃっとした坪見くんの笑顔を見ると、あたしの心も温かくなった。


坪見くんの笑顔は、幸せをわけてくれるのか……。
カフェの店員
お待たせしました!
カフェの店員
特大ホワイトパフェになりまーす
あたしと坪見くんの目の前に、白イチゴと生クリームを盛り盛りに盛ったパフェが置かれた。
丸本 リコ
うわあ、美味しそう!
あたしの第二の目的。それは、このホワイトデー限定パフェを食べること。

実はこのメニュー、カップルで来店しないと食べられない。

毎年恒例の人気メニューなんだけど、これまであたしは自分が非リアであることを嘆き、諦めていた。


でも、今年は坪見くんがいる!
付き合ってないけど、さすがに店員さんもそこまでは確認しない。
坪見 健志
丸本さんは、本当にスイーツが好きだな
丸本 リコ
まあね~
丸本 リコ
……はっ!
ふと、あたしはいいことを思いついた。
丸本 リコ
ねえ
坪見 健志
なんだ?
丸本 リコ
これからも、相談乗るよ
そうすればこれからも、ひとりじゃ注文しにくいメニューを食べられる。
丸本 リコ
あたしは爽介と幼なじみだから、色々情報提供できるし
坪見 健志
いいのか?
丸本 リコ
もちろん!
丸本 リコ
かわりに、あたしにも付き合ってほしい
丸本 リコ
今日みたいに限定スイーツとか、今までひとりじゃ行けなくて諦めてたお店がいっぱいあるんだ!
坪見くんはちょっと考えてたけど、承諾してくれた。

***


二年生になった坪見は見事、また爽介とクラスメイトになれた。

ちなみにあたしも、またふたりと隣のクラス。
でも、昼食を一緒に食べる友達もふたりと同じクラスになった。

ふたりの会話に耳をすませながら、あたしは弁当を食べている。


完全にストーカーだけど、坪見が心配だから、仕方ない! 相手があのデリカシーなしだし、悪気がなくても、坪見が傷つくことだってあるかもしれないし。




ある放課後、あたしは坪見をカラオケに誘った。
指定された個室に入り、あたしは専用の機械で料理を注文しながら、坪見に聞いた。
丸本 リコ
今日の昼さ、爽介と好きな女の子のタイプについて話してたけど、大丈夫?
あたしは機械の画面を見たままだったけど、多分、坪見は驚いたと思う。
坪見 健志
……あのような会話には、慣れている
あたしは画面から坪見へ視線を移した。


坪見は笑っていた。
でもその笑顔は、あたしの心を悲しくさせた。
丸本 リコ
せっかく個室なんだから……
丸本 リコ
肩貸すよ!
他にどう励ませばいいのかわからなかったから、勢いで言ってしまった。

他にもっといい励ましかたがあるはずなのに……引かれたな。







ところが、向かいの席にいた坪見は立ち上がり、あたしの隣に座った。
丸本 リコ
ど、どうした?
坪見 健志
肩、貸してくれるんだろ
ま、マジで!?


あたしが体勢を整えると、坪見の頭があたしの肩に乗った。







やばい。


どうしよう。


部屋暑くないのに、身体が熱い。


聞こえないのに、鼓動がうるさい。


坪見には、聞かれてないよね!?
坪見 健志
ありがとう
坪見 健志
こうやって、気を許せるのはリコだけだ……
その言葉で、鼓動がどんどん加速して。







でもなぜか、少しズキッとした。

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