一学期の期末テスト最終日。
夏限定のかき氷メニューを食べるために、あたしは坪見をファミレスに誘った。
イチゴと練乳の相性は、当たり前だけどマジでバツグン!
一口でテストの疲れが吹っ飛んだ。
おっと。今日はかき氷を食べに来ただけじゃなかった。久しぶりに坪見から相談に乗ってほしいって頼まれてたんだった。
それに、坪見のスプーン全然動いてないし、何かあったのかな。
反射的に叫んでしまったけど、ここはファミレスでお客さんもたくさんいるから、上手くかき消されて助かった。
とりあえず、理由を聞かなくては。
坪見の視線がテーブルに逃げた。
ということは、今回の相談は告白の内容についてだな。
もうすぐ夏休み。
どこかに遊びに行ったときに……が一番告白するチャンスを作りやすいと思う。
あと、イベントがあれば誘いやすいよね。
そうだ!
夏休みのイベントなら、あれしかない!
確かにこのあたりで開催されるのはそれが一番大きいし、有名だ。
でも実はもうひとつ、同じ日に行われる花火大会がある。
それは、毎年あたしと爽介が小学校時代の幼なじみたちと行く、隣町の花火大会だ。何もなければ、爽介はこっちの花火大会に行く予定を立てているはず。
そしてあたしは、爽介が坪見の誘いを断らないように、幼なじみたちに上手く話をつける。
もちろん、坪見のことは伏せてね。
嬉しそうに微笑む坪見を見たとき、なぜかまた、胸に痛みが走った。
何でだ?
普通、誰かが嬉しそうだったら、あたしだって嬉しくなるはずなのに。
じゃあ、坪見のことが嫌いだから?
それはぜっっっったいにありえない!
けど、痛みの原因がわからない。
我に返ると、坪見が心配そうにあたしの様子をうかがっていた。
あたし、そんなにすごい顔してたのか……。
今は忘れよう。
いつか必ず、わかる日が来る。
***
坪見は見事、爽介を花火大会に誘うことに成功した。
坪見が爽介を誘った日の放課後、爽介がそのことについて相談しに来た。
あたしは、みんなにはあたしが説明しておくから、一緒に行ってきなよと背中を押しまくった。
幼なじみはみんな、爽介のことが好きだからこそ、爽介のプライベートも応援している。爽介が来れない理由を伝えたら、なぜかみんな、感動していた。
夏休みに入り、あたしと坪見はデパートを訪れた。
花火大会といえば、やっぱり浴衣だよね!
あたしは着たことないけど、爽介と花火大会に行く作戦を立てたときから、坪見はすごく似合いそうだと思ってた。
案の定、試着のときは何度も感嘆のため息がもれた。
どの浴衣も似合っていたけど、坪見は縦縞しじら模様の濃紺の浴衣と黒鼻緒の雪駄を買った。
自分のものを買ったわけじゃないど、本当にいい買い物ができたと思った。
坪見は腕時計を見た。
男子とウィンドショッピングなんて、まるでデートみたい。
でもあたしって、オシャレに無頓着だから、特に欲しいものは……。
ふと、アクセサリー店の前で足が止まった。
黄色の花をたくさんあしらったヘアピン。
思わず手に取ってしまった。
実は、可愛いものは好き。
だけど、自分には似合わないから、ながめるだけで満足なんだ。
あたしはヘアピンを元の位置に戻した。
すると、今度は坪見が手に取った。
そしてそのまま、レジに向かった。
何で!? って思ったけど、もしかしたら妹がいるのかな。
坪見の妹か……すごく美人そう。
会計が終わった坪見が戻ってきたので、聞いてみた。
じゃあ何で……あ、お母さんか!
すると、坪見はふっと笑みをこぼした。
何で!?
それでも坪見は、小さな紙袋から、あのヘアピンを取り出した。
あたしは、その言葉に従うことしかできなかった。
坪見の顔が少し近づいただけで、身体が一気に熱くなる。
カラオケ店で肩を貸したときと同じだ。
アクセサリー売場にあった鏡を見てみると、あたしの耳元の上で、黄色の花が輝いていた。
あたしが付けても、こんなに綺麗なんだ……。
多分、坪見は笑った。
でもあたしは、その顔を見ることができなかった。
ヘアピンに見とれていたから、だと思う。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!