第2話

坪見 健志
1,031
2021/05/06 23:00
話したことはないけど、実はあたし、彼を知っている。

彼の名前は、坪見 健志つぼみ たけし。爽介の友だちだ。

背が高くてがっしりしてて、運動部の爽介よりも男らしい体格をしてる。
運動もできそうなのに帰宅部らしい。なんてもったいない。



坪見くんの腕の中にある爽介のブレザーを見ているうちに、あたしは坪見くんについて色々思い出した。

高校に入学したばかりの頃、爽介の昼食はコンビニのおにぎりや惣菜パンだった。

でも、一学期の中頃から、坪見くんと仲良くなった爽介は、昼食に彼の手作り弁当を食べるようになった。

体育の時間も、ふたりはいつもペアを組んで練習や試合をしている。

移動教室もふたり並んで向かっている姿をよく見かける……。










と、とりあえずブレザーを渡してもらおう。


動揺が伝わらないように、普通のトーンで坪見くんに話しかけた。
丸本 リコ
爽介に頼まれてそのブレザー取りに来たんだけど、こっちに渡してもらえる?
坪見 健志
あ、ああ……
坪見くんは、すんなりブレザーを差し出した。
丸本 リコ
ありがとう
丸本 リコ
爽介のお母さん、柔軟剤マニアなんだ。いいにおいするよね
坪見 健志
そっ、そうだな……
坪見くんの肩がビクッとはねた。
一応フォローのつもりだったんだけど……。



これは、もしかしたら、本当にそうなのか?
 

頭の中でぐるぐると考えているうちに、あたしの口は勝手に開いた。
丸本 リコ
爽介のこと、好き?
坪見 健志
なっ……!?
坪見くんからは想像できない高い声が出て、一気に顔が真っ赤になった。

何か言いたそうだけど、言葉を見つけられなくて口ごもってるっぽい。



これは、恋愛経験ゼロのあたしでもわかる。
でも、超プライベートでデリケートなことだし、これ以上の詮索はしちゃいけない。
丸本 リコ
それじゃあね
さりげなくそれだけ言って、あたしは教室を後にした。
***


次の日の昼食時間、あたしはいつも通り4組で友だちと食べた。

ちらっと坪見くんの様子をうかがったけど、彼もいつも通りだった。



坪見くんを観察(?)してみると、爽介の前だとすごく表情が豊かになってることがわかった。

そりゃあ、好きな人と一緒にいたら嬉しいし楽しいだろうな。

あたしは、好きな人いたことないけど……坪見くんを見てると、幸せオーラが伝わってくる。










って、まだ坪見くんが爽介のこと好きっていう根拠はないんだけどね!



その日は4組と合同の体育がなかったため、特に関わることなく放課後になった。

ところが教室を出ると、坪見くんがいた。

腕組みして、眉間にシワを寄せてる。
待ちぶせのターゲットは、多分あたしだな……。

坪見くんはあたしに気づくと、すぐ声をかけてきた。
坪見 健志
丸本さん、だな。このあと、何か予定はあるか
あれ? あたし名前教えたっけ。
丸本 リコ
ないけど
坪見 健志
少し話がしたい。いいか?
これは、断れない流れ。まあ、話してはみたいし、ちょっと付き合ってみるか。








そうだ!
丸本 リコ
せっかくならさ、美味しいもの食べながら話そうよ

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