番組が続く間、もう彼と組むことは無かった。
けれど、元からの知り合いが彼と同じチームになったりしてたから、俺も何となくその人達に混ざって、頻繁に彼と顔を合わせていた。
俺からも絡みに行ったし、彼からも絡んできてくれた。
本当に、毎日のように一緒にいたんだ。
ふざけるとすぐニヤッと笑ってくれて、失敗して落ち込んでると励ましてくれる。
良く気が付くな。
俺のことなんか、見てないようなのに。
彼の周りにはいつも人がいて、楽しそうな雰囲気が漂っている。
いくつもある笑顔の中心にいて、彼が何か言うと、いつもわっ、と沸いた。
いるよな、こういう人。
あたたかくて、親しみやすくて、心に何か熱いものを持ってて、クラスの人気者になるタイプ。
イジメなんて絶対にしないし、させないタイプ。
一方俺はと言えば、かたぶつクラス委員。圧倒的お世話係だ。
笑いを取ろうと必死になって、明るく振る舞ってはいるけど、なんか、浮いてる自覚はある。
だから、最後の投票で彼が残っても、何の不思議も無かった。
俺自身は、脱落が決まって、長い緊張から解放されて、また元の、自分の居場所探しの旅に戻るんだ。
もうダメだなって、覚悟はしていたから、泣く事もなく受け入れた。
もっとやれる事はあったはず。
でも、精一杯だったよ。
今の俺はまだまだこの程度なんだ。
俺のパートナーは、リーダーは、一体どこで何してるんだろ。
今頃水でも飲んでるのかな。
ここにもいなかった、俺の大切なメンバー達。
どんな奴らなんだろう。
早く会いたい。
早く一緒に練習したり、楽曲について語り合ったり、したいなぁ。
その中に、彼みたいな、優しくて熱い、才能にあふれた男がいるといいな。
彼みたいな人は、ふたりといるはずもないけど。
離れると寂しさが募る。
毎日のようにつるんで、顔を見て、特徴的な声を聞けた幸せ。
これからは、今までのようにはいかない。
彼が手を取る人は一体、どんな才能にあふれて、どんなにキラキラしてるんだろうか。
いいなぁ。
そんな人になりたかったな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。