俺なんかでいいの? なんて考えない。
俺なんかができるのかな? も、考えない。
それは、俺を選んでくれた人に対して失礼だ。
俺を、いいと思ったから選んでくれたんだ。
俺ならできると思ったから、選んでくれたんだ。
それなら俺は、頑張って、頑張って、できる自分になっていくだけだ。
簡単な事。
選んでもらった事だけを信じて、精一杯やっていくだけ。
俺のどこが良かったの? も聞かない。
だって俺だって、彼の何が良かったか答えられないよ。
素晴らしいダンサーだから、も違う。
ダンスが踊れなくなっても、彼がいいんだ。
彼が、彼だから。
だから俺も、俺だから選ばれたんだ、って思う。
だから。
俺はできるよ、何だって。
初顔合わせの時、もっと緊張してドキドキするかと思ったのに、お互いに、顔見たら笑っちゃった。
「また、おまえがいるのかよ〜」
そう言った彼の目は優しかった。
「どこ行ってもいるんだもんなぁ」
「うぉ〜い」
俺もふざけて返す。
メンバーは、どの顔を見ても、嬉しそうで、目がキラキラしていた。
みんなと離れ難くて、一緒にカフェへ行った。
何を話したんだろう、もう良く覚えていない。
気が付くと俺は、3人の才能あふれる存在を交互に見つめていた。
これが、俺の仲間たち。
ずっとずっと、会いたくて。
会いたくてたまらなかった、仲間たち。
もう涙は出てこなかった。
ただ胸の奥底で、ようやく会えた感動が震えてた。
トイレに立って、手を洗ってたら、後から彼がやってきた。
名前を呼ばれて振り返ると、真剣な眼差しが俺を射る。
「俺、俺さ」
言いにくそうに、でも言いたそうに話し出す。
声が少し小さかったから、良く聞こうとして身をかがめた。
「俺さ、たぶんずっと、おまえに会いたかった。
俺のメインボーカルは。
おまえだったんだな」
顔を赤くして一生懸命言ってくるから、つられてこっちも赤くなる。
なんでトイレの洗面台で、この告白?
「一緒にやれて嬉しい。
頑張るね?」
「当たり前だ!」
恥ずかし過ぎて、あとはもうふたりで笑い合った。
〈終〉
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。