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第6話

スタート
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2021/04/18 09:34




俺なんかでいいの? なんて考えない。

俺なんかができるのかな? も、考えない。



それは、俺を選んでくれた人に対して失礼だ。
俺を、いいと思ったから選んでくれたんだ。
俺ならできると思ったから、選んでくれたんだ。

それなら俺は、頑張って、頑張って、できる自分になっていくだけだ。


簡単な事。


選んでもらった事だけを信じて、精一杯やっていくだけ。

俺のどこが良かったの? も聞かない。

だって俺だって、彼の何が良かったか答えられないよ。
素晴らしいダンサーだから、も違う。
ダンスが踊れなくなっても、彼がいいんだ。


彼が、彼だから。


だから俺も、俺だから選ばれたんだ、って思う。


だから。


俺はできるよ、何だって。





初顔合わせの時、もっと緊張してドキドキするかと思ったのに、お互いに、顔見たら笑っちゃった。


「また、おまえがいるのかよ〜」


そう言った彼の目は優しかった。


「どこ行ってもいるんだもんなぁ」


「うぉ〜い」


俺もふざけて返す。
メンバーは、どの顔を見ても、嬉しそうで、目がキラキラしていた。




みんなと離れ難くて、一緒にカフェへ行った。


何を話したんだろう、もう良く覚えていない。
気が付くと俺は、3人の才能あふれる存在を交互に見つめていた。


これが、俺の仲間たち。

ずっとずっと、会いたくて。
会いたくてたまらなかった、仲間たち。



もう涙は出てこなかった。
ただ胸の奥底で、ようやく会えた感動が震えてた。




トイレに立って、手を洗ってたら、後から彼がやってきた。

名前を呼ばれて振り返ると、真剣な眼差しが俺を射る。


「俺、俺さ」


言いにくそうに、でも言いたそうに話し出す。
声が少し小さかったから、良く聞こうとして身をかがめた。


「俺さ、たぶんずっと、おまえに会いたかった。

俺のメインボーカルは。

おまえだったんだな」


顔を赤くして一生懸命言ってくるから、つられてこっちも赤くなる。

なんでトイレの洗面台で、この告白?


「一緒にやれて嬉しい。
頑張るね?」


「当たり前だ!」


恥ずかし過ぎて、あとはもうふたりで笑い合った。




〈終〉






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