第63話

知らない過去
517
2021/04/10 11:23
淳太side

皐月にとって、1番辛い現実は重なった。

皐月が高学年になる頃、俺らは東京に仕事で呼ばれることも増えて、正直皐月のことまで見てあげれてなかった。俺も照史も東京での仕事という慣れない環境に必死で、大阪戻っても皐月に連絡撮る暇なく、自分たちの仕事に専念するしかない。それに、俺ら以外の関ジュとも上手くやれてるっていう報告もあったしな、


でも、もっとあの時皐月のこと見てあげればよかった…いや、俺らがどんだけ見てたところで防げんかったんかもしれん。

皐月以外の関ジュが先輩のコンサートのバックに着くことになり、東京で仕事してた俺らとご飯に来た時、初めて皐月がしばらくJrでの活動を抑えてるって知った。


「皐月、受験とか考えてるんかな?」

理由も詳しく知らされず、ただ勉学の為だと言われていた俺たちはそんなことを言いながら皐月の復帰を待っていた。

「ま、皐月は賢そうやし、ええとこ合格して、ニコニコまた戻ってくるやろ!」



けど、皐月との再開は、ニコニコとは程遠かった。


その日は雪のチラつく、曇天やった。久々に大阪でやすみをもらい、照史と2人で買い物に行っていた俺の携帯に何度か不在着信が入っていた。

「待って、照史…皐月の先生からめっちゃ電話来てるわ。」

そう伝えると照史も眉を潜めながら電話をかけ直す俺の横で待機する。

お互い嫌な予感しかしてなかった。


「…あ、お久しぶりです。中間です。」

「何度も電話すみません。今大丈夫ですか??」

皐月の先生の声は酷く憔悴してるようで、嫌な汗が背中を流れる。

「はい。今日はoffなので。…皐月に何かありましたか?」

俺の問いかけに、先生は涙声で神戸の大きい病院で有名な大学病院に来て欲しいと言う。

「…え?病院ですか??!皐月に何が…?」

俺の病院という言葉に照史が目を見開く。
そして、直ぐにパーキングを指さして、車を取りに行ってくれた。


結局、皐月の先生の泣きながらの説明ではあまり理解ができず、ただ皐月が怪我をして運ばれたことしか分からなかった。



指定された病室に向かい、ノックをし、中に入って目に入ったのは、皐月の先生と、俺らの知らない男の人が皐月の手を握っている姿やった。


「さ、皐月?」

俺らの会ってない間に少し背も髪の毛も伸びて、でもそれ以上に細すぎる手首を目の前に、その状況を理解できなかった。

俺らの姿を認識した先生と謎の男の人は立ち上がって会釈をし、先生はまた泣き出してしまう。

皐月は、管に繋がれ、細すぎる腕に点滴をされ、目を固く閉ざしとる。

「え、嘘やろ…え?皐月…?」

照史が凄く動揺しているのも、その姿を見て先生が余計に涙を流し始めているのも全てが自分とは別世界で起きているのではないかと思うほど、信じられへん光景に、俺はただただ立ちすくむしか無かった。



知らない男の人は皐月の義理の父親で、優太と名乗った。

先生の代わりにその優太さんが状況を説明してくれる。

「貴重なお休みだと言うのに、お呼び立てしてすみません。」

「いえ…」

「命に別状はないみたいです。」

端的にはじめに優太さんから述べられた事実に、俺ら2人は分かりやすく安堵の息を漏らした。

「ただ、精神的なストレス、ショックが重なって、高熱が下がらず、しばらくは入院するという形になりました。」

「…ストレス…」

俺のつぶやきに、優太さんの眉間にシワが寄る。

「私がついていながらお恥ずかしいのですが、皐月は実の母親から2週間のネグレクトを受けていたと思われます。」

「…え?」

「私が皐月の実の母親と出会ったのは、2年前でした。美咲さん…あ、皐月の母親が精神疾患で入院している先に、週に一回イベントの企画で尋ねている時でした。」

皐月の母親は、自殺未遂で運ばれ、精神的な病を患っていると診断を受け、入院していたらしい。優太さんが出会ったのは入院して、1年たった頃やったそうや。

「精神病棟ですから、色々な方がいらっしゃいます。でも、その中で美咲さんはいつも明るかった。僕にも3人のお子さんの写真をいつも見せてくれて、絶対に引き取るんだと治療を頑張っていたんです。」

その時の事を思い出しているのか、優太さんの表情が緩む。

「気がつけば毎週、美咲さんが退院したら子供たちとやりたいこと、叶えたいことを聞くのが楽しみになっていました。…去年、美咲さんは退院が決まり、そのタイミングで自分は美咲さんにプロポーズをしたんです。」

ネグレクトという言葉を聞いてから、皐月のお母さんを極悪人のように感じとったけど、優太さんの話に出てくる美咲さんは、普通の優しいお母さんやん。と疑問しか浮かばない。

「担当医の話では2人の生活を初めて、それに慣れてきたら、まずは皐月から引き取ればいいのではないかと仰って、2人で半年間夫婦生活を楽しみました。」

ここで、優太さんは言葉を切った。
膝元で組まれていた手は少し震えている。

「…でも、楽しみすぎたんです。半年間の夫婦生活が終わって、2ヶ月は1週間に1回、皐月が我が家に泊まりに来るようになり、美咲さんもとても楽しそうに皐月と過ごしていました。ジャニーズでどんなことをやってる、どんなコンサートがあるといった話を、夜皐月が寝た後に僕にも嬉しそうに伝えてくれるんです。皐月はいい子で僕にもよく懐いてくれていて、優ちゃんって呼んでくれるんです。僕は安心しきってました。5人で暮らす様子も想像出来ました。…でも、この頃からまた、美咲さんの心は壊れていったのかも知れません」

雲行きの悪い優太さんの言葉に自然と身体に力が入る。

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