第42話

感謝
881
2020/07/16 11:02
「盛り上がれんのかぁー?」

「「俺ら次第や!」」

「行くぞぉー!」

「「おぉーーーーー!」」

関西Jr伝統の円陣を組み、迎えた初日。

毎年のように立っていた大阪城ホールでも、関西Jrとして、立つのが最後だと思うと、感慨深くなった。

安田くんが作ってくれて、神ちゃんが振りつけてくれたCant'stop。振り入れされた時、あまりのしんどさに神ちゃんに抗議の電話したなぁ。

大吾の掛け声で、センステに向かって走った時、目に入ったうちわ。

「ありがとう」

たった一言だったけど、其れを持っている女の人に、驚いた。

7年前、私がなにきんから脱退することになった公演で、アンチがいる中私のうちわを握ってくれていた子だ。初めてファンレターをくれた子だ。

ユニットを離れて、東京ばっか行って、どんなにコンサートで後列になっても、私のうちわを握り続けていた子。

絶対、忘れない。

私がそのうちわを見つめているのに気づいたその子は、うちわを慌てて裏返して、また表返した。


「辞めないでくれて」「ありがとう」

それを見た瞬間、涙が溢れた。

なにかファンサをしなければならないって分かりながら、何も出来ず涙を隠すように、その場から離れた。


「前向きスクリーム入りまーす!」


舞台袖で着替えて、次々と進むセトリをこなしていく

同期たちと出る山手線外回り

青春アミーゴ

Luv Sick


はちゃめちゃに、楽しく、関西らしくボケながらやっていくと、あっという間にソロ曲の時になった。


「oh〜baby baby この部屋抜け出して〜」

私が選んだのは関ジャニのbaby baby。

自分で道を切り開くっていう歌。

今の自分の気持ちを表している。


oh baby babyこの部屋抜け出して
転がることさえ夢中なら明日に続いて行くのさ
oh I'm crazy crazy 裸足で駆け抜けて
間違うことさえ僕らには まだ見ぬ世界への翼

ギター1本で、歌う目の前には、私の色のペンライト

アンチが多すぎてユニットから外れ、その寂しさや私生活の為にひたすらに東京に仕事に行って、

戻ってきた頃には、私の場所が最後列で

私の事をいつも見てくれていた、BADや7west兄さん達がジャニーズwestとして、デビューした時は、なにきんが肩並べて頑張ろうと決意してるのを後ろから眺めて

廉や紫耀の東京進出、柊真君の退所でなにきんが消滅して、また最前列に並べるようになったり、

どんどん居場所がないように感じている中、funkyに入れてもらって、ダンスをがむしゃらにやったり


前に進み続けられたのは、関西Jrというこの部屋があったから。

私はこの部屋を抜け出して、本当に、明るい明日にたどり着けるのか

何回も不安に思った気持ちを、この歌を歌うことで、かき消したかった。


1人で歩くにはこの世界は広すぎる。


でも…私が今まで関西Jrで頑張ってきた事実が消える訳では無い。


進むしかない。


私は、自分で選んだ道を進み続ける。


ステージに輝く、白色のペンライトを前にもう一度決意した。


〜ロマンティック

客席降りや、トロッコが出るこの曲。私はどさくさに紛れて、ある場所に行った。

「ね! ずっと応援してくれとった子やんな!」

「キャー」

私が話しかけたことによって、その子の周りの子が叫ぶ。

「ありがとう。あなたが、7年前のあの日いてくれたから私は辞めずに頑張れた。7年間、着いてきてくれてありがとう。これからもよろしくな〜」

本当はこんな特定のファンに話しかけることは良くない。絶対怒られる。

私は自分の手につけていたブレスレットを外して、握りしめた。


「握手!」

手を差し出すと、大号泣しながら手を出す彼女

「え…」

彼女の手にブレスレットを忍ばせる


「持ってて。7年間のお礼」

その子の腕を引き寄せて、その子にしか聞こえないように小声で伝える。

手を離して、泣き崩れるその子の頭を撫でてから、周りの子達にもファンサをし、舞台に戻る


MCの時間

「皐月、なんでさっき舞台降りたん?この子ね?降りる予定のない所で客席降りしてるんですよォー」

って康ちゃんに堂々とチクられる

「ふふふ、7年前の初めてのコンサートの時から来てくれてるファンの子がいたから思わず降りちゃたよね」

この一言にきゃーという歓声

「何話したん?」

ときくこうちゃん


「んー?そんなん2人だけの秘密やん」

口に指を当てて、ウインクすると再び湧くホール内。


「じゃねー」

と、そのまま衣装替えに入る


衣装を着替えてると

「お前なぁ、降りるんは危ないってなってたやん」

と、龍太くんに怒られる。

アンチが減ったとはいえ、まだ危ないと、私は基本的に客席降りを許されてはなかった。

まぁでも、これくらいのお小言はあの子のために耐えるしかないな

プリ小説オーディオドラマ