「どーしてん。皐月は決めたことは絶対譲らんねやろ?」
切ない顔でニヤッと笑う正門を前に涙が止まらなかった。
正門はいつもそう。
大吾みたいに距離がずっと近い訳でもない。丈みたいに私の事を何でも知ってる訳でもない。
康ちゃんや龍太くんみたいにいつも過保護な訳じゃない。
なのに
しんどくて、限界が来た時、気づいたら傍におってくれる。私が1番ほしい言葉を言ってくれる。
東京に行く話も、自分のことより、残された関西Jrが心配だった。いつもいつも離れそうで離れなかった存在。お互いに依存しあってるのはわかっていた。私が離れると、かたちが崩れてしまうかもしれない。
何より、私の居なくなった関西Jrが想像できないし想像したくない。
東京に行くと決めておきながら、そんな心配と自分の不安で揺らいでた気持ちを正門は汲み取ってる。
だから、この人には隠し事出来へんのよな〜
「んで?大吾とかには言ってないんやろ?いつ言うん?」
「わからへん。早めに言っておきたいけど、今言ってしまうと大吾が壊れてしまうから。丈くんも。」
私の言葉に正門も苦笑いする。
「なにわ男子は、今年上が崩れて、はっすんだけではどーにもなぁ」
正門も同じこと思ってたんやろう。
「ギリギリまで言わへんかな、多分言われへんし。」
「また、とんだ秘密を共有してもうなたな。」
正門が言いながら髪をくしゃくしゃと掻き回す。
「ごめん。」
「何謝ってるねん、しんどい悩みは共有したら軽くなる。俺にも背負わせてくれ。それ以外なんもしてあげれへんし」
正門は優しすぎる。
私を甘やかしすぎる。
ごめんなさい。きっと正門が思ってるような未来にはならない。それでも、今私が出来ることを精一杯やってくるから。
これで最後。この話で、正門に頼るのは最後にする。
また溢れ出す涙を正門が拭ってくれる。
「ほーら、そんなに泣いたらまた明日目腫れて、みんなに問い詰められるで?」
困り眉て微笑んでる正門の唇に、自分の唇を押し付けた。
「…ごめん。、」
「…え?…は?」
私の突然の行動に驚く正門。
「ごめん。ごめん。もう、正門に頼るのは今日が最後やから!…東京で頑張ってくるから!お金、置いとくね!」
自分でも驚いた行動。動揺して、思わず飛び出して来てしまった。
正門のことを恋愛面で好きだなんて、考えたこともなかった。今もよく分からない
でも、いつも弱ってる自分を助けてくれる正門に自分のよく分からない不安と正門に頼ってしまう弱さを押し付けて、離れたかった。
もう、これからは、助けてくれる関西Jrはいない。
強くないといけない。
自分の足で、進まないといけない。
全部弱さも不安も、今のキスで忘れてしまいたかった。
「正門、ごめん」
決して本人には届かない声が寒空の下、ぽつんと残された。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!