第64話

知らない過去
497
2021/05/20 08:25
照史side

「なぁ、淳太くん。俺絶対皐月のことは守らなあかん思うねん。」


病院からの帰り道、俺と淳太くんは何も話せなかった。皐月が辛い思いをしてる時に、寄り添えなかった自分達の無力さ、彼女が抱えた傷の深さ。

俺たちはこれから、守っていけるんだろうかと不安になる気持ちを抑えるために俺は、宣言した。

「おん、そやな。俺らはあいつのお兄ちゃんやしな。」

少しでも彼女が進む未来が明るくなるように…。
おれは、病室で聞いた話を思い返しながら、気合いを入れ直した。


「2週間私が出張に行く少し前から、皐月はお試しで長期的に我が家に泊まっていました。そこでの様子が大丈夫であれば、そのまま、私が出張に行く2週間も美咲さんと2人きりで過ごさせる予定になっていました。」

もう一度優太さんは、苦しそうな顔をする。



「私は2人の様子が大丈夫だと判断し、2週間の出張に向かいました。そこからは、状況証拠と近所の方の証言、さっき皐月が起きた時に聞いた話からの予測になります。」



「私はその日早朝に出かけました。目覚めて寝室に皐月しかいない状況に美咲さんは少しパニックになったそうです。そこから落ち着いた頃には美咲さんは微熱を出していたようです。皐月はそんな美咲さんの看病を付きっきりでしていたみたいなのですが、美咲さんは熱のせいか、皐月に当たるようになっていたみたいです。」


「こうなったのは皐月のせいだといった言葉を毎日のように言い、1週間も経てば、怒鳴り散らしていたみたいで、何回か近所の方も声を聞いたと言っていました。熱が出て不安定な時に、2人きりで罵倒され続けた皐月は2週間で5キロも体重が落ち、」


ここで優太さんが肩を震わせる。


「罵倒がエスカレートした母親に包丁を向けられ、マンションから裸足で走って逃げている所を警察官に保護されました。保護された瞬間に意識を失って、高熱がでて運ばれ今に至ります。」


想像以上の 話に驚きを隠せない。


その後皐月の実の母親は殺人未遂の調べで警察が家に入ったところ、手首を切って倒れていたらしい。
幸い命に別状がないが、怪我が治り次第殺人未遂の容疑で事情聴取になるらしい。
精神疾患が考慮され、直ぐに逮捕ということにはならないようだが、優太さんは皐月との接触を禁止させると言っていた。

皐月は目覚めた時はそこまで取り乱したりも無かったため、今後カウンセリングをしながら様子を見るらしい。

この話は関西ジュニアの中でも、俺と淳太くんだけで留めておくことになった。事務所には俺たちから軽く話をし、皐月の病院の先生から、また正式に状態の報告がくる。


皐月の退院日が決まった報告を、東京におった俺らはジャニーズ事務所で聞くことになった。
それと同時に、彼女は俺らが帰った日目覚めて記憶障害を起こしていたという事実も聞いた。
ストレスから身を守るための障害。

母親は精神障害で入院している。自分は母親とはそれから会っていない。
自分が入院したのは人とぶつかって、怪我をしたからだ。と色々な記憶がすり替えられていたらしい。

人とぶつかったという記憶で、1番印象に残っていたであろう、皐月が事務所に入った滝沢くんとぶつかったというきっかけも、その記憶の混濁で忘れられ、滝沢くんの事は顔を見ても分からなかったらしい。もちろん、優太さんの存在も忘れられ、入院中に記憶が戻ることもなかった。


「淳太くん。絶対俺らは皐月のこと幸せにせなあかんな。滝沢くんのためにも。」


今まで東京に行った時は皐月は滝沢くんの家に行ったり、ご飯に連れて行ってもらったりしていたが、病院の先生が、抜け落ちた記憶がきっかけで母親のことも思い出すかもしれないと聞き、必要以上に滝沢くんが皐月に会うことは無くなった。

事務所で

「僕にとって、皐月は妹なのに変わりない。でも、桐山と中間に任せるよ。妹をよろしくな、」

という悲しそうな滝沢くんの顔は一生忘れないと思う。







現実
「淳太くん。俺ら、ちゃんとやれとったかな。」

俺の問いかけに

「やれとったと信じるしかないやろ、」

と淳太くんも不安そうな顔で言う。

「でも、頑張るんは俺らじゃない。今はSixTONESや。俺らはサポートに徹する。」

やっぱり淳太くんは凄い。
愛を持って大切な子を手放すことができる人や。さすがや!

と心の中で褒めておいた。

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