皐月side
「さっ着いたでぇー!」
村上くんの運転で着いたのは、何度か行かせて頂いた横山くんのお家の近くだった。今日は東京の引越し先を見に行こうと村上くんに誘われた。
村上くんが忙しすぎて、年始の今日しかゆっくり付き添えないらしい。
「…ここ、横山くんち近いですよね?」
「おお、よー覚えとったな。場所探しとる時にうちのメンバーの家が近い方がええやろ思てな。ちょうど横んちの近くにいい感じのマンションあったから。」
そう言って鍵を開けてエントランスに入る。
中にはホテルマンのような人が2人。
「ご苦労さんですぅ〜」
と当然のように挨拶をし、スタスタ歩いていく村上くん。村上くんが探してくれたとはいえ、こんなにいいとこなんかと萎縮してしまう。
エレベーターで上がるとびっくりすることに最上階。
「いやいやいや、村上くん。最上階なんて…」
と慌てる私にがははと笑う村上くん。
「ゆーても5階やんけ、そんな慌てるもんでもないやろ」
さすが…大物。
何を言っても動じない。
「ここな。」
そもそも最上階には数える程しか部屋がない中、1番奥の部屋に着いた。
「むむむ村上くん。いい所すぎるんですけど…」
「なーに萎縮しとんねん。」
とりあえず入れと言われて入ったら、長い廊下。
リビングに入ると、当然のように並んでる数々の家具。全部エイト兄さんたちのお古だという話だったが、電化製品には新品のビニールが被っている。
「村上くん、新しいのんあるじゃないですか!」
「当たり前やろ!電化製品は新しないとすぐ壊れるんやで!?これからずっと東京住むんやったら、長期的に考えてやな、サラの方がええやろ」
村上くんに言われて初めて気づいた。
そうだ。自分はこれから、こっちに住むのだ。
セキュリティは万全じゃないといけない。何かあった時のためにエイト兄さんの近くに住まないといけない。壊れないように電化製品はさらやないといけない。
自分が萎縮してしまっていた数々は、全部こっちに引っ越してくる時に考えておくべきこと。
自分の考えの甘さを痛感した。
「まぁ、ゆーてもこの辺はジャニーさんとタッキーが揃えてんけどな。」
と指さすのは大きすぎるテレビとHDD。
「みんな、なんやかんや皐月のことを1番心配してるんやろな。タッキーなんか、ビビるくらい連絡くれて、引越しのこと聞いてきよったわ」
関西ジャニーズJr出身だから、自然とエイト兄さんに1番に頼ってしまう。滝沢くんには遠慮してしまう。それを全部、見透かされていたんだと気づいた。
やっぱり先輩達には敵わない。
東京に来ること、不安で不安で仕方なかった自分に気がついて、同時に、心配ないって思えた1日だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!