「おー、皐月やん」
事務所の廊下で声がした方を向くと、
「…光一くん、ご無沙汰してます。」
大物、堂本光一君がいた。
「いつになったら、SHOCK出てくれんの!」
「無理ですよ、あんなにセリフの多い舞台。」
毎回会う度にSHOCKに出ないか聞いてくる。
「皐月も花束贈呈するんだってな?」
「はい。急遽ジャニーさんの提案で。」
「さすがやなジャニーさん。」
「はい。後は色々な新年の番組とかにも出さして貰うことになってます。」
「皐月も昔からあっちこっち出とるもんな」
光一君が懐かしそうに言う。
昔、まだ高校に入ってすぐの時、KinKi Kidsの番組に出たことがあった。
その頃はちょうどなにきんから脱退して、フリーになっていた頃。事務所の指示で東京でのテレビ番組によく出させてもらっていた。
「あの時は、本当にお世話になりました…」
「あん時は、ビビったわ」
毎週東京と大阪の往復で、さらにテストの期間が被っていたこともあり、KinKi Kidsの番組に出させてもらった日は38度越えの熱を押しての収録だった。
「本日のゲストは、朝本皐月でーす」
「お願いしまーす。」
「いやね、Jrがこの番組に来るんもなかったし、しかも、我々の後輩関西Jrからの期待の新人ですよね〜」
光一くんに紹介してもらい、一問一答やらフリートークをしていたが、あの時の意識はほとんどない。
まぁ、あとから聞いた話ある程度笑いは取れていたらしい。
「はい!本日の収録は以上です!ありがとうございました!」
とカットが掛かり、
「皐月ちゃん、なかなかおもろいこと言うやん」
と剛くんが振り向いてくれた瞬間、私の体は平衡を保てず倒れた。
「皐月!?」
その日の収録はそれが最後でマネージャーがちょうど他の現場に行ってしまっていたこともあり、気がついたら光一くんの家に運ばれていた。
「ん…う…」
「お、皐月、目ぇ覚めたか?」
目を覚まして身動きを取るとパソコンに向かっていた光一君がこっちに来てくれた。
「え、こ…ういちくん?」
「おうよ。今剛くんが食べれるもん買いに行ってくれてるわ」
「???え…」
私があまりにもキョトンとしてるのが面白いのか、光一君が笑う
「ははは、皐月全く覚えてないんやろ?収録終わった瞬間ぶっ倒れて、病院連れていったら39度も熱あって、ホテルに連れて行ってもなんもないししゃーないから、俺ん家連れてきたんやん」
「え…ごめんなさい!すぐ、帰ります!」
「まーまー落ち着け。」
すぐ帰る用意をしようと起き上がったがびっくりするほどの頭痛にベッドに戻ってしまう
「それより、皐月。お前学生のくせに働きすぎや。悪いけど保険証探すんに手帳やら見させて貰った。学校が普通にあって、今は試験中で…って中で毎週末、下手すら学校休んでまでこっちに来とる。」
怒られてると思ってこっそり顔を見ると、頭の上に手を置かれた。
「お前がちっさい時から見てるから、5年も仕事がない中待ってて、焦る気持ちもわかる。特にお前は昔から苦労してた。やけどマネージャーが持ってきた仕事全部うけとったら体こわすやろ。それに、あのマネージャーもマネージャーや。自分の取ってきた仕事を自分のキャリアのために皐月に全部やらせて、タレントの体調なんて全く見てない。ジャニーさんに連絡したら全く皐月の仕事量のこと、報告されてなかったって怒っとった。」
光一君の顔はとても優しかった。
「とりあえず、今後テレビの仕事は少し控えなさい。」
「いや、でも!くっ」
また突然起き上がって頭痛に苦しむ
「やから、落ち着けって。俺らはまだ関西Jrとかない時代やったけど、やっぱり関西はホームやと思てる。皐月、お前も関西がホームやろ?お前の居場所は関西Jrや。お前のホームにいる人間は俺らも、関ジャニも他のJrも、お前の頑張りを1番知っとる。仕事が少なくても、大丈夫。お前のことを見とる人はいっぱいおる。慌てんな、学生は学生らしく、引かれたレールの上を歩くだけでいいんや。無理に東京にこんでいい。」
光一君が優しく話してくれる言葉一つ一つが焦って焦って緊張しっぱなしだった私の凍った心を溶かしてくれる。と、同時に涙が溢れた。
「あ〜あ〜泣くな泣くな、熱上がる。…それにな、仕事がないって焦るんやったら、SHOCKでお前のことを引き受けたる。お前の居場所はいくらでも作ってやるから、」
ガチャ
「え、光一さんなに泣かしてはるん?」
「っちゃうって不可抗力や!」
その後、剛くんが作ってくれた雑炊を食べ、ジャニーさんが迎えに来てくれた。
その後の話をジャニーさんとし、学業を優先する事を約束した後、今までのマネージャーは外されたこと、今後は東京に来た時に関東のマネージャーが対応してくれると聞いた。
「お前のことをSHOCKに引き込んだろ思たのに、全然端の役以外やってくれへんかったし!」
光一君が膨れる。いや、本当に40になるんですか?この人。
「いや、リカ役とか絶対無理ですから。それに、そんな大役は、私がデビューしてからにして下さい笑」
まぁ、つまりほとんどありえないってことだけど。
「まぁ、いつかそうなった時は覚悟しとけよ?カウントダウン楽しもーぜ〜」
そう言って片手をあげて行ってしまった光一君。
その後彼の手によって剛くんがプリントされたジャケットを着さされたのは、ご愛嬌。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!