それから時間は過ぎていき
おにいが帰ってくる時間になって
玲於くんが帰っちゃう時間にもなった
玲於くんの言葉に少し胸が弾んだけど、
私はそのドキドキを抑えて、普通の相槌を交わした
ガチャンッ
玲於くんが帰って、玄関の閉まる音が響いた
この空気がちょっと苦手
誰かが帰っちゃったあとの静けさって言うか
まぁいいや、また会えるんだし
寂しくない、寂しくない
それから数十分後におにいが帰ってきた
ガチャンッ
再び玄関のドアが開いた
やっぱり家族の中の
おにいの安心感は違うなぁ~
するとあなたの携帯の画面が光った
こんな感じで数分くらいで終わった
玲於くんにまた会いたくなった
この気持ち、いつ伝えようか
いつ伝えられるか分からないけど
私でも
ほんの少しでいいから
好きという気持ちを味わあせて
すんなり嘘をつけちゃう自分が嫌い
おにいのため、玲於くんのため、だと思っても
心配かけたくないし
迷惑かけたくないし
ごめんね、私の嘘にもう少しだけ付き合ってね
壱馬の手があなたのおでこに触れた
そうメモに書いて、私は自分の部屋へ向かおうとした
トコトコトコトコトコッ
トコトコトコトコトコッ
すると後ろから抱きつかれる感覚があった
おにいが私を抱きしめてる
でも…
誰かに抱きしめてもらったの、ほんとに久しぶり
私は振り返って、おにいを抱きしめた
あったかい
ほんとの兄弟じゃないのに
別にカップルでもないのに笑
この温もりはなんだろね
だけど、今
壱馬があなたを抱きしめてる感情と
あなたが壱馬を抱きしめてる感情は全く違った
壱馬は、好き
あなたは、ありがとう
でも同じ温もりなのが悔しい
もっと違う出会い方をしたかった
壱馬はそう思って、あなたを抱きしめた
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!