車に揺られること数十分、おにいの家に到着した
おにいが反対のドアにまわってきてくれて、
そっと手を差し伸べてくれた。
私は口パクでおにいにそう言った
おにいも口パクで返してくれた
おにいは私の荷物も持ってるのに
さらに私を支えながら一緒に歩いてくれた
おにいが鍵を開けて、家に入る
おいでと私を手招きした
口パクで「お邪魔しまーす」と言い、
靴を脱いで、家にあがった
するとおにいはメモ用紙を取ってきてなにかを書き始めた
私もその紙に書き答えた
口パクでそう言った
おにいも笑いながら返してくれた
そしておにいに案内された部屋は意外に広かった
家具はベッドだけで、あとは棚があって、
あなたも軽く微笑む
一度、自分の部屋に一人になった
荷物の片付けをして、
あっそうそう、一回やってみたいことがあった
くだらないけど、
ベッドにダーイブ!
新しい布団の匂いってなんかいいよね笑
私はベッドに仰向けになった
昔から、一人の時に目を瞑ってるとあの時を思い出してしまう
事故の時のあの衝撃が今でもはっきりと
車と車が急にぶつかって、
その衝撃で後部座席でシートベルトをしていなかった弟は運転席の方に身を投げ出された
私はシートベルトをしてたけど
身を乗り出すことはなかったけど
衝撃で窓ガラスに頭と耳をすごい勢いでぶつけて…
耳がキーンってなってさ、痛かった
耳が聞こえなくなったのはその時の衝撃
私は苦しかったからシートベルトを外したんだけど、
今考えたら外さない方が良かったのかもしれない
割れたガラスで腕を切った
痛さとびっくりで私は泣きじゃなくった
血が溢れるその光景を
今でもちゃんと覚えている
お母さんとお父さんはもう反応しなかった
私が必死に叫んだけど
両親はびくともせず、もう即死だったんだなって
それから救急隊の人が来て、
家族全員を救助したらしい
その時には私は意識を失っていた
相手の車の人は捕まったらしいけど
あーあ、そんな事考えてたら涙出てきた
枕を濡らした涙
あの衝撃はいつまで経っても忘れない
その時、ちょうどおにいが入ってきた
私はいきなり入ってきたおにいにびっくりしながらも
頬に伝った涙を手で拭った
音では伝わらなくても
心配してくれてる様子は伝わってきた
ベッドの上のメモ帳を壱馬が手に取り、書き出した
私はおにいの優しさにまた涙した
私から隣に座るおにいにそっと抱きついた
目を瞑ったら涙がたくさん頬に伝いそうで、
淡い瞬きしかできない…
あなたは壱馬の服の裾を強く握りしめた
壱馬も気付いたのか、
あなたの背中をとんとんと優しく慰めながら頭を撫でた
その優しさで私は涙した
今はなんでもいいから、私はおにいの優しさを求めてた
そこから数十秒、涙を流した
少し落ち着いたから、自分から離れた
久々にこんなに泣いた
そして壱馬があなたを案内した
口パクでそう言った
扉が閉まった
服を脱ぐと、右腕に傷跡が
やだな…これは誰にも見られたくない
またそんなことを考えながらシャワーを浴びた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。