ノートを(なまえ:下の名前)に差し出す。
ノートを見ながら口走る(なまえ:下の名前)。
無機質な機械のように(なまえ:下の名前)は読み上げた。
急いで私はそれを書き加える。一言一句たがわずに。
お姉ちゃんは、四つ上で、病弱だった。
物心ついた時から病院にいた。
もう病気が治らないことは確定していたらしい。
お姉ちゃんは、私とは違ってとても頭がよかった。
姉はこんな私の話を聞きながら何を思ったのだろう。姉は運動会にも出られなかったし、走った思い出も無いはずだ。
胸は痛くなかったのだろうか?横で聞いていた母はどうだったんだろう?
この話は、私が幼稚園の年少さんだった時だから姉は小二だ。
今の私よりも幼い。
自分が小二だったころの記憶は、家族旅行で行ったディズニーランドしか覚えていない。
ジェットコースターなどのアトラクションはとても楽しかったし、何より初めてで新鮮だった。
そんなに幼い頃から葛藤を抱え、我慢してきたのか。
考えてみて呆然とする。
小六の時は、中学受験のために通っていた塾に行くのを少し早く出て姉のところに毎日行っていた。
廊下でお父さんとお母さんの会話を聞いてから。
母が泣き崩れた。
お姉ちゃんは静かに首を振った。
お姉ちゃんといる時はなんでも話せた。
落ち着いた。
でも、最後の日は、お姉ちゃんに会いに行けなかった。
2月1日。前日会いに行った時はいつもより調子が良かったし、頑張れって送り出してくれたから、受験に専念しようと思った。
そもそも、静岡から東京に行くのは時間がかかるので前泊しなければいけなかった。
お姉ちゃんの容態を知ったお母さんは、私のスマホにメッセージを入れて、新幹線で帰っていった。午前中の試験を受けている私を置いて。
だから、私は1人帰ってホテルでお姉ちゃんの無事を祈るしかなった。
翌日の試験の勉強をしようと思うっても身が入らなかった。
その学校の発表は、当日だったのでそこに合格していたら帰ろうとひとりで決めて、荷造りをした。
お母さんも賛成してくれた。
でも、間に合わなかった。
直前に決めた緊急手術。意識不明になったお姉ちゃんを見て決めたらしい。
3~4時間かかると言われて手術室の前で待っていた両親の前で無情にも2時間で手術中のランプが消え、お医者さんがでてきたらしい。
合格発表を見て喜ぶまもなく、飛び乗った新幹線。祈るような気持ちで乗った駅からのタクシー。
ずっと両手を組んでいたタクシーで一言
「私の分まで生きてね、」
と聞こえた。ハッとして、タクシーの運転手さんを急き立てた。
でも、私が着いた時には既に両親はないていたし、姉は冷たくなっていた。
よくつないだ手も硬くなっていて、お姉ちゃんが寝ている時に触っていた頬は冷たかった。硬かった。
泣きながら聞いた。
お姉ちゃんの声を聞いたのは16時頃。お姉ちゃんじゃないのかもしれない。
その時は勝手にお姉ちゃんだと決めつけて、姉の分まで生きることを決めた。
それから生きるため、死なないために、ノートを付けるようになった。気になること全てに。
また、姉の分まで充実した人生を送るために、何事にも全力で取り組んだ。
姉が出来なかったこと、やりたかったことを全部やると誓った。
そして、最近わかったこと。
お姉ちゃんは、天国に着いた時に私に教えてくたんだ。
病気で見られなかった世界を1時間余すことなく見ながら、天国に行ったんだ。
お姉ちゃんは、私だけに教えてくれたから、私はお姉ちゃんの分も生き抜く。
それから医者が嫌いになった。
姉が死んだのは医者の力不足だ。
医者が悪い。
何度謝られても、許せなかった。
ただただ泣いているだけの両親がもどかしかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。