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高層マンションのほぼ最上階の一室という事もあり、取り敢えず何もかもが豪華だった。
リビングに入ると、まず大きなガラスが張られたバルコニーが目に飛び込んでくる。
ガーデン用の大きなテーブルとチェアが向かい合って置かれており、
観葉植物のツタがバルコニーの手すり部分や壁に巻き付いている。
程よくモダンチックなフローリングは艶やかに光り、
真っ白な壁紙が光を受けて、更に純白さを主張する様だった。
キッチンはカウンター付き。
キッチン上部の取っ手を軽く引くだけで、上から見た事のない大きな収納棚が下りてくる。
中には一般的な調理道具から、お菓子作りや特定の料理でしか使わない様なものまで揃えられていた。
調味料も何か不足がある訳でもなく、冷蔵庫も最新式の大きな物だった。
…と、言っていればキリがないな、と途中で気づいた私は素直に感動するのをやめ、
淡々と部屋の案内を続ける彼に相槌を数回打ちながら過ごす事にした。
『ガチャッ』
彼がドアノブを回して部屋へと入る。
私はさっきまでと同じ様に、彼の後ろについて部屋へと足を踏み入れた。
その部屋は何の家具も置いておらず、レースカーテンすらも掛かっていなかった。
(物置部屋…?)
今までの部屋とは違い、サイズも一回り小さい。
ぼんやりと何も掛かっていない窓を見ていると、いつの間にか彼がドアにもたれかかっていた。
それから、彼は腕組みをしながら口を動かす。
もっと小さな部屋だと思っていた。
というか、そもそも部屋が与えられる事も期待してなかった。
思わず反応が遅れる。
それを彼は見逃さなかった。
私は肩から掛けていたボストンバッグ類を部屋のその場に置いた。
重い荷物に耐え続けた肩をグルグルと軽く回していた私は振り返る。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。